歌うたいのウタ

mana

第1話出会い

私の名前はウタ。

これは私が産まれた時の産声がまるで歌声だったという事から母がつけてくれた名前。

そして私は物心がついた頃には何かと話すように歌を歌っていたらしい。

それは16歳になった今でも変わらない。


ある日、私の住んでいる町に旅の吟遊詩人の男性がやってきた。

その姿はまるで精霊のように長身で髪の毛は銀色に輝き歌声は美しい。でもどこか儚げだった。

歌う詩の中には「天から愛されるものはその歌声が世界を変える」という一説があった。

吟遊詩人のその一説がなぜか私の心にとても響き、この人と言葉を交わしたいと集まっていた人たちが去った頃その男性に声をかけた。

「貴方の歌声はとても私の心に響きました。」

「それはとても光栄な事ですね。ありがとう。」

「貴方はどこからやってきたの?」

彼は私をからかうかのように

「僕はどこからもやってきてはいないような気もするし、いつからかここにいたのかもしれないね。」

とても不思議な言葉だった。でも私の事を馬鹿にしているのかと思いつつもこの目の前にいる男性の神秘的な姿にもっと話がしたくなった。

「私の名前はウタ。お兄さんの名前を聞いてもいい?」

彼は少し頭をかしげながらこう答えた。

「僕の名前は決まっていないよ。ある所ではセイ。またある所ではシルバーだったかな?」

「名前が決まっていない事に不安はないの?」

「僕は僕だから名前はあとからついてくる。僕はそれを気にしてはいないよ。」

「じゃぁ、私が貴方に名前を付けていい?」

「それはとても嬉しい事だね。」

「お兄さんの歌う詩は誰かが歌っていたものなの?」

彼は少し笑いながらこう答えた。

「僕の歌は誰かが歌っていたものというよりは伝承だね。それに僕にはそんな才能はないよ。」

「そうなんだ。じゃぁ、伝承を歌にして伝える姿が素敵だったからコトハ!」

彼は少し不思議そうな顔と私を静かにでも何かを伝えそうな瞳で

「コトハかぁ。どうしてコトハなの?」

「言葉を伝える事ができる人だからコトハ。」

彼は何も言わずでも嬉しそうに頷きながら

「じゃぁ、これから僕はコトハだね。」

と急にはしゃぎだした。

「ねぇ、コトハはどこにこれから滞在するの?」

コトハは困ったような顔をして

「決まったところはないよ。だから野宿かな」

「じゃぁ、私の家においでよ!私は両親がもう亡くなってしまっているから一人なの。」

「でも僕は男だし、もしかしたら悪人かもしれないよ。」

「そんなあからさまな嘘しんじないよ?」

二人でクスクス若いながら

「じゃぁ、お言葉に甘えようかな?」

「うん!三食お昼寝しても大丈夫です!ねぇ、コトハ!貴方はこの町にいつまでいるの?」

「僕はこの土地に満足するまでいるよ。」

そう言ったコトハの銀色の髪は夕日を浴びてますます神秘的な色をはなっていた。

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歌うたいのウタ mana @k-mana

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