72時限目「ドリアの陰謀【タウン壊滅計画】(前編)」
アカサの救助が終わり、エーデルワイスと名乗った魔法使いは住民の避難へと向かった。
王都より送り込まれた数名の魔法使いはディージー・タウンの危機を救うべく街を駆け回っている。
「……アーク、か」
カルーアもまた、ドリアの陰謀を止めるべく動き出そうとしていた。
この街の象徴。人類の希望と呼ばれた箱舟・アーク……街に仕掛けられた爆弾。それを起動するためのスイッチと動力炉は、あの箱舟を経由して起動される。
今、ドリアはあの箱舟へと向かい最終調整を行おうとしている。それを許してしまえばこの街は火の海になる間もなく、あっという間にガレキの山になるというわけだ。
「君達は俺の部下の指示に従って、街の外へ避難しろ。あとは任せてくれ」
カルーアはエージェントとしての任務を全うする為、クロード達に告げる。
ウイルスから解放こそされたものの、荒治療から解放された肉体は今もその後遺症が残っている。完全な回復も見られず、アカサは立つこともままならない状態だ。
「……王都のエージェントがやってきたんだ。もう大丈夫だろう」
イエロも心の底からホッとしたような表情を浮かべていた。
王都のエージェントは悪事を見逃さない。今回送り込まれたエージェント達は“王城より直接命令を受けて”街へとやってきた者達ばかりだ。その立場は評議会よりも上とされている。
心の底から信用できるヒーロー達だ。まだ解決できるかどうかも分からないが、最早この危機は脱したようなものだとイエロは安心したようにクロードに語り掛ける。
「……」
しかし、ただ一人。
クロードは無言のまま、箱舟アークを眺めている。
「クロード? 一体どうし、」
「ごめん。イエロ」
眼鏡の位置を整える。動きやすいように、クロードは首に巻いていたストールも整える。
「アカサを頼む」
駆けだす。
動けないアカサを託し、クロードはカルーアと同じく、アークへと向かって走り出す。
「クロード!?」
呼び止めようにもそこから動こうとすれば、身動きの取れないアカサを一人取り残してしまうことになる。そんな真似、出来るわけがない。
ただ、見送ることしか出来ない。
また血迷うように……先走るようにその場からいなくなってしまう、クロードの背中を。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドリア・ドライアの計画。己に恥をかかせた一人の魔法使いの為に、ここまでも陰険に権力を酷使した暴挙。
「……親も親なら、子も子ってわけか」
カルーアは一人、アークへと向かう。
数分前アーズレーターに流れた映像を見るに、まだドリアは最終調整を終えていない。箱舟に到着し、爆弾を起動させるための魔術回路を直接解除しなくてはならない。
ここから先は競争だ。どちらが先に、スイッチに触れるかの勝負なのだ。
「絶対に止めてやる……!」
拳を握り、箱舟を睨みながらカルーアは走り続けた。
「カルーアさん!」
同時、後ろから聞こえてくる。聞き覚えのある少年の声。
「……クロード、か?」
思わず、足を止める。
ついさっき、避難するように指示を与えたはずの少年が、何故か魔導書を片手に追いかけてきたのだから。
「なんで、ついてきた。避難しろって言っただろうに」
追いついたことにホっとしたのか、膝に手を付けて荒い呼吸をしているクロードにカルーアは問いかける。
「……今回の一件、僕が無関係だとは、言い切れないから」
「全てはドリアの身勝手だ。お前が気負う必要はない」
責任を感じる必要はない。あの日、クロードは間違えたことをしたわけではない。全てはドリアの自業自得、理不尽な身勝手だ。そんな理不尽に巻き込まれたクロードには何の責任もないと言い張った。
「だから、お前も早く逃げて」
「……守らせて、ください」
息を整え、胸を張ってクロードはカルーアと見合う。
「今度は……“僕が守りたいんだ”」
もう、逃げ回りたくない。誰かの背中にいたくない。
“決着をつけたい”。
この地獄のような日々を。皆を苦しみから解放する。
“己の撒いた種をその手で刈り取る”。
責任もあるし、一人の魔法使いとしての誇りもある。何よりクロードは男として、もう背中を見せたくないとカルーアに主張した。
「……ついてこい!」
カーラー・クロナードの弟子。そして、エージェントであるノワール・クロナードの兄。魔法使いとしての実力は既に、肉眼でカルーアは目にしている。
足を引っ張る様なヘボな魔法使いではない。アークの暴走を止める為、魔法使いクロード・クロナードの協力をカルーアは受け入れた。
「はい!」
再び走り出すクロードとカルーア。
箱舟アークへと、二人は向かっていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ジャングルでただただ苦戦を強いられていた三人の問題児の前に現れたのは、エージェントの一人であるノアール・クロナード。
「……どうして、ここが?」
「ブルーナ・アイオナスからの伝令」
ブルーナが交戦に入る前、どうやらマティーニ達の危機をいち早く、エージェント達に伝えていたようである。
場所を聞きつけノアールは現場へ急行。ギリギリの地点、ノアールは三人の危機へと駆け付けたというわけだ。
「……さっきの交信といい、お前達エージェントの援軍といい」
サジャックは幹の上から問いかける。
「いつの間に、この街へきやがったんだ?」
「……」
ノアールはただ、静かにサジャックを見上げているだけだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
__数分前。医療施設。
勝手に動き出そうとしているアカサ達。それを止めるべく、ブルーナはソルダ達と共に救援へ向かおうとしていた時のことだ。
意識がいまだに戻らないジーンと市長の様子。ここまで切羽詰まった状況の中、ブルーナ達も正気を見失いそうなほどに取り乱していた。
「行くぞ。三人に何かあってからじゃ」
「___ああ、急いだほうがいい」
途端、その場に現れた。
「この街も、君達の友達も危ない」
“王都のエージェントとその部下数名”。
王都より派遣された、最高階級の魔法使い達が。
「……エージェント・カルーア?」
何故、彼がこの場に現れたのか。ブルーナは思わず唖然としている。
一人ではなく部下も引き連れて数名での訪問。余程の用件がなければ……これほどの人出を引き連れるはずがない。
「時間がない。手短に話すから……よく聞いててくれ」
現場へと到着したカルーアは告げる。
ディージー・タウンへ突如現れた評議会の息子のドリア・ドライア。そして、意識を失っている市長とウイルスの存在。
「……今から、尽くせる限りの手を貸す」
ディージー・タウンが危機に陥れられている事。
ドリア・ドライアの陰謀の全てを、その場にいたクロードの友人一同へと明かしたのだった。
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