60時限目「少年少女【フクザツなカンケイ】」
外に連れ出されたクロード。
長期休暇の昼間という事もあって、外は人だかりが出来ている。話の通り、二人だけのお話がしたいとのこともあって、あまり人のいない裏路地近くにまで連れてこられていた。
「……スカーレッダさん、どうしてこんなところに」
何もないところに連れてこられたことで、クロードは妙に警戒している。
「その、さ」
すると、アカサは両手を背中に隠し、片足で地面をほじくりながら答える。
疑問に首をかしげるクロードの顔を見ることもなく。
「いい加減、名前で呼んでもらえないかなーって」
純粋な懇願なのか、それともヤキモチなのか。
クロードはいつまでたっても、アカサの事は名前で呼ばず苗字のみ。そう、彼女だけが苗字で呼ばれ続けているのだ。
「それと、その距離感どうにかならねーかなーって……もう交流深めて数か月だぜ~?」
アカサはぐいぐいと距離を近づけてくる。
彼女の言う通り、クロードはアカサに対してだけ妙に距離感がある。
苗字読みの件もそうだが、アカサに触れられようとすると距離を離すし、アーズレーターの連絡先の交換すらもしない。彼女からの誘いも開口一番は断ったりと、妙に冷たい気がしてならない。
とはいっても、それは周りもアカサもほんの少し悟っている。
“苦手意識”だろう。
クロードは騒がしいのはあまり好きじゃないと言っていた。初めて会った時も、こういう図々しい人とはお近づきになりたくないと堂々宣言した。
だから、友達という関係にギリギリなっていないだなんて、そんな位置を保っているのだろう。
「こんな可愛い子が頼んでるのに、それを無下にするなんて男じゃねぇぜぇ~……?」
ついには壁に追いやった。
ニヤけ顔。アカサからすれば、これでもかと距離を詰めたのだろう。
「……いーやーでーすー」
クロードはこれまた、開口一番すぐに否定した。
いつもと変わらない対応。クールにあしらうような対応だった。
「ちぇ~!」
アカサは残念がる表情で離れる。
「そこらの男どもなら、これくらいやっとけば一撃で落ちるのに」
アカサは見た目だけすればかなりの美少女だ。見た目だけなら。
スタイルも悪くないしで、見た目だけは本当に文句の付け所がない。そこらのウブな男子であれば、こうして距離を詰めて、囁くように眼中で呟いて、そのスタイルの良い体を摺り寄せたりすれば……大抵、一撃で落ちる。
だが、クロードは絶対にその手には乗らなかった。
変わらない反応を前にして、アカサは悔しそうに近くの小石を蹴り上げていた。
「なぁなぁ~。私の事、そんなに嫌いか~?」
「嫌いってわけじゃないです。ただ、毎日いるのは厳しいかなって思う程度に苦手ってだけで」
「それ、嫌いって言うんじゃねぇの?」
苦手意識が強い、とクロードは単刀直入に答えた。
尤も、その表現方法は彼女の胸をダイレクトにナイフで刺すようなドストレートぶりであったのだが。
「はぁ~。まぁ、そこばっかりは仕方ないけどさ……ただ、やっぱり寂しいぜ~? 私だけ、のけ者ってさ」
冗談気味に笑いながら、アカサは皆の元へ戻ろうとする。
話はそれだけのようだった。フリでもいいから、ああいう他人行儀にも程があることをしてほしくなかったのだろう。
「……スカーレッダさん」
「なに~」
戻る前、クロードはアカサを呼び止める。
「その、さっき……そこらの男なら一撃で落ちるって言ってたけど……そんな事、普段から別の男性にもしてるんですか?」
「ああ、いやぁ~? 推測だよ推測、それがどした?」
「すっげぇ、尻の軽い女だなって」
「フッた上に追い打ちかよ。お前の根性すげぇな」
呼び止めてまでした質問は清々しいほどのトドメであったことに、アカサは彼の根性の据わりっぷりを豪快に呆れていた。
「おっ、いたいた」
二人の元にソルダがやってくる。
彼だけじゃない。ロシェロにブルーナ、そしてイエロと舎弟達も一緒だ。
「これから街を案内して回るってんなら、一緒についていこうと思ってよ。行こうぜ?」
アカサとクロードの代金は既に支払っているご様子。
二人とも昼食は食べ終えていた。食事を中断されている件に関しては、特にそれといった不満はない。
「オッケー! じゃあ、いこっか」
「……はい」
アカサとクロードも賛成。
合流し、一同は表通りに出てくる。
これから、待ちに待ったディージー・タウン観光のお時間。
夏の長期連中の思い出作り。クロードにとって、騒がしいと思いつつも、青春の一ページとして刻まれるであろうワクワクがこみ上げていた。
「おや?」
……そのはずだった。
「はっはっは、誰かと思えば」
表通り、出てきて直ぐ。
「“魔法使いの恥晒し君”じゃないか」
クロードにとって
“もっとも会いたくなかった人物に出会うまでは“
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