59時限目「再会【イエロ・リーモン】」
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昼。市長室にて、今日もディージー・タウンの事について会談が行われる。
「……というわけでございまして、しばらくの間、この辺りを調査させていただきたく、村にご協力願いたいのです」
今日は外からの客人との会談だった。
市長の代わりに、秘書である女性が話を進めている。マティーニは今日の会談の事について、許可を貰ってメモを続ける。
「これも魔術の新しい発展のため。しかし、ディージー・タウンには数多くの歴史があります。安全の為にも、まずは注意勧告などを行うべく、我々に許可を」
「かしこまりました」
秘書が話を進めている。
彼女によれば、この会談はかなり前から決まっていたらしく、市長も協力する方面で話を進めていたらしい。元より決まっていたこともあって、会談はスムーズに進んでいた。
「……ありがとうございます」
村の調査。それは、この世界の技術の新たなる発展のためだという。
そのためにも、このディージー・タウンには“深い協力”が必要なのだ。
「我々“評議会”、誠心誠意で、その期待にお応えいたします」
スーツ姿の17歳の男。
胸に“評議会の責任者補佐”としての証を着けた青年は、その協力を心から喜び、臨時市長である秘書の女性と握手を交わしていた。
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「ぎゃっはっはっ! なんだ! お前の友達だったのかよ!」
近くの喫茶店のテラス。長い髪を結った男は顔を真っ赤にするクロードを眺めながら笑っている。口の中にまだ、サンドイッチが残っているのにもかかわらず。
それに対し、クロードは恥をこれでもかと表情に出していた。何を言えばいいのか、どう口論したものかと歯を噛みしめている。
「アカサの言うとおりだったみたいだな!」
ソルダは隣の席から、ソーダの入ったグラスを手に笑っている。
「クロードのダチがこっちに遊びに来るってさ!」
クロードの友達。
彼から聞いた話を思い出せば、そこで思い当たる人物は一人しかいない。
イエロ・リーモンだ。
クロードが幼い頃、風の魔術を教授して貰っている最中に出会ったという男友達だ。とても愉快な性格で、まだヤンチャな性格をクールな性格で装ってなかったクロードとはよく遊んでいた。
たくさんの友達。それに囲まれ、翻弄されているクロードを見ながらイエロは笑い続けている。
「俺はソルダ。学園では爆炎のソルダと豪風のクロードって、コンビで有名人なのさ。よろしくな」
「言われてないから」
また、ソルダはありもしない自称の異名で持ちあげる。そういったのを凄く嫌うクロードを巻き込みながら。
「イエロだ。よろしく」
ソルダがイエロと握手を交わしていると、それについてきている舎弟達も次々と自己紹介をしていた。
男同士、それで性格も似通っているのか、ソルダ達の間ではスムーズに自己紹介が進んでいた。
「ブルーナだ。ブルーナ・アイオナス。彼の先輩、というべきか」
「そして私がロシェロ・ホワイツビリー。ここにいるみんなの頼れる博士だとも」
ブルーナとロシェロも続いて自己紹介。ブルーナはいつも通りクールに淡々と。ロシェロもまた、いつも通り胸を張って鼻息を吹かしながら。
「んで、私が、クロードの友人第一号のアカサ・スカーレッダということでよろしく」
最後にアカサが自己紹介をし、ひとまずは全員の紹介を終えた。
「……いやぁ~。クロード、お前ってやつぁ。意外と隅に置けねぇなぁ~?」
隣に座っているクロードの肩に手を通し、イエロは彼の頬をつつく。
「こんな、可愛い先輩に同僚と仲良くなってるなんてなぁ~……初めまして、イエロ・リーモンと言います。いつも、クロードがお世話になってます」
クロードをからかい終えると、彼から腕を離し、今度は女性陣に自己紹介。
明らかにソルダの時と違って、わざとらしくダンディな声を出している。目も尖らせて、歯もキラつかせながら。その気になればお近づきになれるんじゃないかとワンチャン思っているのだろうか。
「……相変わらず、ケイハクなヤツ」
クロードはコーヒーを飲む。
「そういうお前も相変わらずだな。本当は“コーヒー”嫌いな癖に、大人ぶろうとカッコつけて無理して飲んだりしてるとことかさ」
「ブッ……イエロッ!!」
思わず噴き出しかけた。というか、噴き出した。
衝撃の事実をイエロは笑いながら漏らす。クロードはまたも顔を赤くし、言ったことを取り消すようにと急かし続けている。
「へぇ~? 本当はコーヒー、嫌いだったんだぁ~?」
サークルに遊びに来た初日、飲み物はジュースや水なんかではなく、ブラックのコーヒーが好きだからと注文していた彼であったが……本当はコーヒーなんて飲めるはずもなく、ただカッコをつけたいという理由で無理して飲んでいたことが判明する。
これには当然、アカサもニヤニヤするしかない。他の面々も、彼のそう言った一面を知って面白かったのか笑いを堪えているようだった。
「もうっ……」
観念したのか、クロードはコーヒーに口をつけた。
「ロシェロ先輩もブルーナ先輩も、ソルダさんも後で覚えておいてくださいよ」
何かするわけでもないが、何かしらの報復の警告をしておいた。
「それと“スカーレッダ”さんも」
そして、第一号の友人アカサにも警告しておいた。
「……なんで同僚の女の子だけ、苗字読みでさん付けなの?」
ふと気になったイエロは首をかしげながらもジュースに口をつける。
些細な問題だと思ったのか、深く追求をしようとはしなかった。やや小声、テンションの上がっている皆も、その一言を聞き逃しているようだった。
「あっ、そうだ」
アカサは立ち上がり、イエロの隣に座っているクロードの腕を掴む。
「えっ」
「クロード、アンタに話しておかないといけないことあったんだった」
「それって、今じゃなくても」
「いいから、早く!」
そのまま、コーヒーカップを手放したクロードを無理矢理、店の外に連れて行ってしまった。
「……はは~ん。まさか、まさかね?」
イエロは何かを察したように、テーブルに撒き散らされたコーヒーの水滴を布巾で
拭いていく。無理やり連れだされたクロードを面白そうな表情で眺めながら。
「しかし、良かったよ。クロードの奴、こっちで上手くやれてるようで……すっげぇ、不安だったからさ」
コーヒーを拭き取り、少し茶色に染まってしまった布巾を店員に頼んで交換してもらう。
「アイツ、変に意地を張るところがあるし、すぐに熱くなるしで……話を聞いてみれば、案の定一回問題起こしちまったみたいだけど」
師匠であったおばあちゃんに憧れてクールになり切ろうとするが、元の性格は隠し切れないようで、いつも熱くなって暴走してしまうことがある。イエロもまた、彼のそういう一面は深く分かっているようだった。
「良かった良かった。本当に」
心の底から、安堵しているような声でイエロは息を吹いた。
「……実はよ。他にも友達がいるんだが、今日は忙しくて来れなかったみたいでな。友達、一杯出来てるし頼られてるしで……よくやってるぜ」
ソルダがまた一つフォローを入れた。
他の友達というのはマティーニの事だろう。今日、彼は“市長としての仕事の補佐”の用事があるために、クロードの弱みを握る今日のイベントには参加できなかったようだ。
マティーニは悔しそうな表情を浮かべていたという。何せ、クロードの弱点を見つけ出せるいい機会だったのだから。
「アイツがいないうちに、いろいろ聞いちまおうかなぁ~?」
ソルダのよからぬ企み。
「ああ、好きなだけ喋ってやるぜ!」
「彼はどういう女の子が好みだったりするんだ?」
「ああ、それはな……」
こうして、クロードの恥を晒す会・第二ラウンドのゴングが本人の知らぬところで鳴らされようとしていた。
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