53時限目「真夏のアイランド【ラグナール・ビーチ】(後編)」


 突如現れたのは……水着姿のモカニ・フランネルだった。

 何処にいようがマントを羽織ったまま。明らかに視線を集めそうな格好でロシェロの前に現れる。


「モカニ、さん?」

 クロードはあまりにも突然の登場に首をかしげる。


「私もいるわよ~」

 すると、モカニの後ろからもう一人現れる。

 水着ではなくワンピース姿。麦わら帽子をかぶった、助手のエキーラも一緒であった。


「……今日は、体があるんですね?」

「まぁ、公の場で首だけの姿だと怖がらせるからね~」


 ある程度、人間側と交流のある魔族が多くなったこの世代。首だけでも動けてしまう未知の生態を持ったエキーラではあるが、やはり、その姿を恐れる人間は今も多い。

 変に警戒を与えないよう……そもそも間違って“危険な魔物”と認識され攻撃をされないよう、今日はしっかりと肉体を用意したようである。



「こんなところに来てまで暇なことだな。男をたぶらかす露出狂めが」


 水着姿のモカニを眺めながらロシェロは唾を吐く。


「……負け犬の遠吠えは、聞いていて心地が良いな?」


 それに対し、モカニは自慢げに胸を張るばかり。


 見た目のわりにスタイルが良い。どうやら、着やせするタイプだったようだ。マントに隠れた水着姿は、そこらの男であれば悩殺されること間違いなしである。

 そこらでは絶対的な勝利を確信しているのかモカニは堂々としている。歯ぎしりをしているお子様体系の彼女をあざ笑うばかりであった。


「まぁいい。私の計算では、あと数年もしたら肉体は熟成する。お前の泣きっ面が目に浮かぶな」

「17歳の地点で絶望的なのも分からないか。お子様が」


 体のことで張り合っているロシェロとモカニ。

 相変わらずしょうもない喧嘩。そして申し訳ないが、ロシェロにとっては勝算が欠片もない悲しいバトル。こんなところに来てまで、この喧嘩を見ることになるとは思いもしなかった。



「上等だ、この野郎。ちょっと、向こうの岩陰に行こう。久々にキレてしまったよ」


 ロシェロは立ち上がると、歯ぎしりをしながら拳を鳴らしている。小柄な彼女にはビックリするほど似合わない光景である。


「折角の誘いだけど……今日は違う方法で決着を着けに来たのよ」

「違う、方法?」


 首をかしげるロシェロに対し、別の方向へとモカニは視線を向けている。




「やぁ、ここにいたか」


 クロード達の元へやってくる。

 同じく、アロハシャツと海パン姿の“ジーン・ロックウォーカー”だ。


「ひゃひゃっひゃっ。今年も海の季節が来やがった。てな」

 その横には学園の中でも生粋の問題児と言われていた“ゴォー・リャン”。

 そして、その中で一人……見覚えのある小太りな男の姿もある。


「……あっ。マティーニさん、誘われた相手って」

「ああ、そうさ。何せ僕は、市長の息子だからね。ロックウォーカー家の皆さんとも仲良くさせてもらっている……その御厚意、無下にするわけには行かないさ」


 市長の息子として、この街で良くしてもらっているロックウォーカー家の接待の為に“マティーニ”は動いていたようだ。クロード達の誘いを断った理由も頷ける。


 学園では有名人の一同がその場に集結していく。

 気が付けば、クロードにとっては色々とあったメンツがその場に出揃った。



「ロックウォーカー。例のイベントとやら、もうすぐ始まるの?」

「ああ、準備は出来たようだ。丁度クロード君達に声をかけにきたところだよ」


 モカニの問いに対し、ジーンは笑顔で答える。


「イベン、ト……すいません! その、イベントの内容なんですが、」

「……ロックウォーカー。まさか、イベントの事、伝えてない?」


 呆れた表情でモカニが再度問う。


「あれ? まさか、書いてなかった……いやぁ、すまない! 私としたことが、とんだウッカリを」


 昔から、何処か天然なところがあるとブルーナは言っていた。

 モカニの言う通り、貰った書類には“海に行く”としか書いておらず、“海で行われるイベント”については一ミリも記載されていなかった。照れくさそうに頭を掻くジーンを見ていて、アレが本当にあのナンバーワンなのかと疑問も浮かべたくなる。


 誰にでもうっかりはある。そうすることにしておこう。



「来たか。ジーン」


 ブルーナがやってくる。


「やぁ、ブルーナ。水着姿、とても綺麗だよ」

「……そうか」


 一瞬、口ごもった声で返事をする。


((わっかりやすっ))


 噂通り……ジーンに対してゾッコンのようである。あまりにも分かりやすすぎるリアクションに、クロードとロシェロも鼻で笑いそうになった。


「むむ?」

「なんだ、なんだ?」


 波打ち際で遊んでいたソルダとアカサ達も、騒ぎを聞きつけてやってきたじゃない。次々と、ラグナール学園のメンツが出揃っていく。


「ふふっ、皆。揃ったようだね」

 ジーンは全員集合したところで、背を向ける。

「じゃあ、ついてきたまえ」

 これから始まるイベントの会場。


 何が何だか分からぬまま、一同はジーンへとついていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



『それでは開幕です!!』


 数分後。ビーチに用意された特設ステージ。

 水着を着たスタッフのお兄さんとお姉さんが、マイク片手に叫ぶ。



『第1回! ラグナール・クイズチャレンジ大会!!』

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