45時限目「賞金稼ぎ【コンドル・ハンティング】(後編)」


 それぞれ班に分かれ、もれなく発生中のヘルコンドル狩りへと移行する。


 

「いましたね……」


 クロードとブルーナは二人で行動、群れの中の一匹を発見する。

 まだ、ヘルコンドルはクロード達に気が付いていない。物陰に隠れて、上空のヘルコンドルの様子を伺う。


 まだ気が付いていない。奇襲を仕掛けるなら今である。


「あぁ、まずは様子を見て、」

「仕掛けます」


 クロードは片手を広げる。


「えっ、ちょっと待っ、」

 

 ブルーナが静止した。しかし、もう遅かった。

 ジーンと同様に高速発動で高威力が売りのクロードだ。相手に感づかれるよりも先に仕掛けるのを得意とするクロードの魔術・割風砲は既に飛び出していた。



『____ッ!!』


 見敵必殺。サーチアンドデストロイ。

 ミキサーにも似た風の刃が収縮した竜巻の砲台は一瞬でヘルコンドルを切り刻んでいく。防御する暇もなかったヘルコンドルは悲鳴を上げながら吹っ飛ばされていった。


「よしっ! これで一匹……」


 クロードはガッツポーズ。早速結果を作ったのだから当然と言えば当然か。


「……あれ?」


 だがしかし___クロードは先制攻撃を仕掛ける前、思いもしなかったのだ。




 その先制攻撃はまさしく……“墓穴を掘る行為”であったことを。

 



「やってしまったな」

 ブルーナも空を見上げながら溜息を吐いた。




 “群れ”だ。

 ヘルコンドルの他の個体が集まってきた。敵意を露わにし、しかもその数は五匹近く。仲間がやられたショックに震えているのか、怒り狂っている。




「……ヘルコンドルは仲間意識が強い。仲間の悲鳴を聞けば、すぐさま駆けつける」

「えっ、それ、貰った書類には書いてなかった」

「言い忘れてた。ウッカリしてた」


 仕掛ける前に様子を見る。ブルーナが言うのは、視認した個体ではなく……その周りにいるであろう“他の個体”の事を指していたのである。


「ひぃいいいいッーーー!?」


 クロードとブルーナ。すぐさまUターン。

 クロードはいつものクールぶった空気と違い高い悲鳴を。ブルーナは最早見慣れた風景と言わんばかりに無表情。全力疾走でその場から逃げていく。


「一匹ずつ撃ち落とす。クロード、走りながら魔術の発動は?」

「一応できますっ……!」

「よろしい」


 ブルーナは弾丸を込める。

 魔物の体内に入り込むと同時、その中で爆発するように内側から組織を破壊し、破裂させる。撃ち込まれたら最後、大概の魔物は助からない。


「撃墜数、プラス一、だ」


 込めた弾丸をヘルコンドルの一匹に撃つ。

 怒りを露わにしているのが逆に追い風となっている。目の前の人間を殺すと敵意だけを露わにしているために警戒心が削がれている。ただイノシシのようにまっすぐ突っ込んでくるコンドルの脳天目掛け、弾丸を撃ち込む。


 ……命中。


 脳天を撃ち込まれたコンドルは一瞬で気を失い落ちていく。そして爆散。

 何度見ても惨い死に方である。クロードもそうは思っていたが、今は逃げる事に全力で気にもかけていられない。


「次にもう一匹」

「僕もっ……!」


 もう一発、弾丸の準備。

 クロードも逃げてばかりなんて間抜けな姿を見せたくはない。片手で空気の刃・斬殺風車を生成する。


 銃声。そして、空気の乱れる音。

 二つ同時、それぞれの弾丸がヘルコンドルに向けて放たれた。



 弾丸はヘルコンドルの胴体に。刃はヘルコンドルの体を頭から真っ二つに。

 慎重に数を減らしていく。他に援軍が来ないことを祈りながら。


「……全く、こんな姿。ジーンに見られたら笑われる」


 次の弾丸を装填する最中、ブルーナは一言呟いた。

 無表情の中、微かに唇が歪んでいる。おそらく、苦笑いをしているのだろう。


「ブルーナ先輩、ジーンさんと仲が良さそうでしたけど、友達なんですか?」

「……あぁ、昔から世話になってる」


 装填を終え、また一発。弾丸をヘルコンドルへ発砲。

 これも命中。脳天が爆破し、力なく胴体のみのヘルコンドルが落ちていく。残り一匹。群れを呼ばれる前にカタをつける。


「……貴族関係者で唯一、ロックウォーカー家はアイオナス家に良くしてもらっていた。仲が良かったんだ。私もジーンとは幼い頃からの付き合いだ」


 次の弾丸を装填。クロードが術を放つよりも先に、ブルーナが手を回した方が速そうだ。


「同い年だが兄のような奴だ。そのせいもあって、ウッカリなところがうつった……ああ見えてマヌケで天然なところがある。変な奴だとは思ったが……一人だった私に声をかけてくれたし、腕の良い魔法使いとしても尊敬はしている。気が付けば付き合いも長くなって、腐れ縁のような関係になっていた」


 最後の一発。

 銃口は、最後のヘルコンドルへと向けられている。


「何処にでもいるような友人関係だ。そうも珍しくはない」


「……もしかして、ブルーナ先輩」



 ふと、クロードは思い浮かべたことを口にする。



「ジーンさんの事、好きだったりします?」



 銃声が響く。





 ……不発。

 狙いは完璧だったはず。しかし、弾丸はヘルコンドルを捕らえることなく、何処か空の彼方へと飛んで行ってしまった。


「えっ!?」


 まさかの迎撃失敗。クロードは慌てて、割風砲を放つ。

 正面からの割風砲。しかも距離が近いとなればその破壊力は絶大だ。


 ……得意の高速発動で間一髪撃退。

 ヘルコンドルは竜巻にのまれ、回転しながら空の彼方へと吹っ飛んで行った。




 全てのヘルコンドルを撃退。他の仲間は呼ばれない。

 危機を回避したところで、二人は同時に足を止める。クロードは当然息こそ荒かったが、ブルーナはこういう局面は慣れているのか、息は整っている。


「はぁはぁ……ブルーナ、先輩?」


 少しずつ息を整え、クロードはブルーナの方を見る。

 直立不動。銃をぶら下げたまま、静かにそっぽを向いている。




「そ、そんなわけ、ある、か」


 クロードの方へ視線を向けると、いつもと変わらない表情……いや、違う。

 多少だが震えている。多少だが顔が赤くなっている。多少だが、唇が歪んでいる。


「たしかに、兄のように慕って、は、いる、が、そこまでの、感情。も、持ち合わせて、い、いない」


 途端、また顔を逸らす。

 やはり体が小刻みに震えている。空いた片腕でブルーナは必死に“蕩けてしまう”自身の顔を抑え込んでいるように見えた。


「そ、そういうこと、だ。勘違いするな、いい、な?」

「あぁ、は、はい……」



 だれよりも冷静で大人な対応だったブルーナがこんなにも取り乱している。いつもと変わらないクールなまま。



 ちょっと意外な一面を見れたと思う。

 今回の魔物退治、参加して良かったかもしれない。ちょっと得した気分になったクロードはレアなブルーナの姿を見てそう思った。

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