32時限目「燃料補給【宝石亀】(前編)」


「さて、諸君。新シャドウサークル、栄えある二日目の活動を開始するぞ!」


 カレーライスの悪夢から後日。授業を終え、再びガレージハウスに集結する。

 ソファーでくつろぐブルーナ、近くに置いてあったバランスボールの真っ最中であるアカサ。そして、木造の椅子に正座で腰かけるクロード。


 三人は、ホワイトボードの前で熱弁するロシェロの方を見ていた。


「そうですね! 一日目の失敗を取り返しましょう!」

「おい、コラ、スカーレッダ君。昨日の交流会を黒歴史にするんじゃないよ。初めてにしては白米は上手く炊けていただろう。白米は」


 飯盒で炊けた白米。しかし、それを帳消しにするレベルでカレーがまずかった。本当にまずかった、マジでまずかった。


「効能がどうとか、先輩が怪しい薬草を放り込みまくってたの、見えてましたからね」

(見えてたのなら、止めろよ)


 薬草がどうとか、いらない豆知識をカレーにまで押し付けたロシェロ。それを目の当たりにしていたのは、ノリだけで食材を放り込んでいたアカサ。


 勘で作ろうとしたクロードは心の底で彼女に突っ込んだ。料理の経験ゼロのサバイバル少女ブルーナはスルーしていたが。


「さて、カレーの苦い思い出は鍋と共に山奥に置いてきたのだ。次のステップに進んで、糧としようじゃないか。私達のカレーでも、誰かに美味しく食べられてると信じて」


 食った魔物か動物は死滅してるのではないだろうか。ご愁傷さまと手を添えておこう。



「……我々の目的は結果を残すことだ。そして、我々を認めなかった愚かな社会に叛逆をする。その第一歩として……古代文明の巨人、ゴリアテを起動させる。これは、私の結果を横取りしたコソ泥野郎の老人共でさえも成し得ていない」


 コソ泥野郎の老人共。ロシェロが言うのは“魔法研究の最高評議会”の長達の事だろう。


「ここ数日の実験にて、一時的に動かすことは成功した……だが、魔力の消費や燃料の消費が馬鹿にならない。二秒しか起動できなかったよ。そこで、私は新たなる燃料を作るために、後日、学園を休む。その材料を確保しに行こうと思うのだ。そこで君達の手を貸してほしい」


 明日の授業を丸々休む。

一日休むくらいは何の問題もない。明日は絶対参加の授業が存在しないのが幸いだ。


「魔物狩りの手伝いだ。ここにいる面々なら、街一つ燃やし尽くす怪物が現れない限りは百戦錬磨だろう」

「その、魔物というのは……?」

「あとで説明しよう。それを踏まえて、参加表明を頼む」


 可能であれば、サークルメンバー全員の参加を求めている。


 ロシェロは授業に参加しなくともテストで満点取れるし、ブルーナも同様。クロードは独学による勉強は出来る為、後日教師から授業内容を軽く聞いて自習すればいいだけだ。


「あのー、私、勉強苦手ちゃんなので、ちょっと怪しいというか」

「それくらい私が教えてやろう。頭でっかちの教師よりは分かりやすくな」

「いや、頭宇宙な先輩から教わる方が、難易度マックスなんですけど」


 教師と比べて余計な点まで喋ってしまうのが、このロシェロという少女の悪いところらしい。肝心な部分が頭に入らないという重大な欠陥というわけだ。


 アカサはどうするか迷っていたが、渋々連れていかれることになるだろう。



「よし、全員が参加表明をしたところで、さっそく本題に入ろう」


 ロシェロは近くに置いてあった大きなポスターを手に取り、それをホワイトボードに貼り付けた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 そういうわけで後日。

 集合時間は昼ご飯前の午前十時。遅刻した者は罰金として昼ご飯を奢ることになる。多少ながら面倒な罰ゲームを避けるため、一同は遅刻せずに集合場所となる裏山へとやってくる。


 以前やってきた森林より更に奥。上のそのまた上。


「ひぎぃ、疲れるぅ……」


 やってることは一種の山登り。ハイキングである。

 長い山道を上り続ける。徒歩であるためにアカサはバテる寸前であった。


「うちのメンバーの中では行動派なスカーレッダ君が先にバテてどうするのかね」

「遊びまわるのは好きですけど、こんな何もない山奥をウロつくのは何か違うというか……」


 外を駆けまわる子供はよく見かけるが、そういう子に限って、マラソンや山登りはあまり好きではないと言う子供もいる。ようは、遊びと捉えているか捉えていないか。楽しいと思っているか思っていないかの違いなのだが。


「クロナード、お前は大丈夫か?」

 だが、実際長い時間山登りをしているのも事実。ブルーナはクロードに現状を聞く。

「大丈夫ですよ。これくらいなら」

 華奢な体つきにインドア派なイメージであるクロード。これくらいの事ならバテたりしないあたり、流石は王都のエージェントである魔法使いの息子と言ったところか。  


「ホラホラ、新入りのクロナード君も頑張ってるんだぞ。君も胸を張らんかね」

「と言われてもですなぁ……」


 無理なものは無理。慣れるのには無理があると言いたげだった。



「あ、そうだ! クロード空飛べるじゃん? 私を目的地まで連れて行ってよ」

 スーパー・フライと呼ばれる、空中移動のマジックアイテム。それを駆使し、長距離移動を可能とする彼を利用すれば楽できると踏んだアカサのワガママが炸裂する。


「おいコラ、協調性に欠ける事を言うんじゃないよ。そうやって、一人一人目的地まで運んで行ってもらうとしたら、クロナード君の負担がエグイ事になるぞ」

「なんで、全員運ぶこと前提で話してるんですか、この人」


 楽をしたい人間はアカサだけではなかったというわけだ。微かにあふれた欲望を前にクロードは思わず言葉を漏らす。


「そうしようにも、重量的な問題で空に上がることは難しいですよ。ロシェロ先輩がギリギリだと思います」

「遠回しに私がチビだと言われた気分だ。悲しいね」


 総重量的な意味で、スーパー・フライがもたないと思われる。二人での空中移動が不可能であることをクロードは告げた。


「まぁ、もう少し頑張り給え。もう五分もかからない」

「うげぇ……」


 目的地まであと僅か。

 一同は、山奥にある“渓谷”へと向かっていった。

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