22時限目「野望【少女の反抗記】(前編)」


 ロシェロの言葉に、態度を改める。


「随分と理不尽な目に合った。違うかい?」


 最悪な目に合った。

 彼に同調しているような。同情するような言い方には“聞こえない”。



「……」

「まあ、言わなくてもいい。そのつもりがないのなら、無理に口にするな」


 無言。それは暗黙の了承だったとロシェロは捉えた。

 王都の学園で、クロードは夢に向かって走り続けていた。だが、理不尽なハプニングにあって、この田舎街に単身で送り届けられることになった。


 理由こそ聞かなかったが……リアクションから、そのような目に合ったのは確定事項と考えるべきだろう。



「ここには、」

 テーブルの上に置いてあった飴玉を手に取り、それを口に放り込むロシェロ。

「“君と同じような生徒”が集っている。私を含めてな」

 理不尽な目に合い、地の底に落とされた可愛そうな人間。


 サークルシャドウ。古代語で“影の円陣”という意味合いのあるこのチーム。ロシェロを含めた三人娘には、彼と同様に“他人に進んで言いたくはないワケ”があるようだ。


「下にある巨人は見たかね?」

「あ、はい。あれは……」

「“ゴリアテ”と私は呼んでいる。体にそう刻まれていた……アレはな、裏山の遺跡で私が見つけ出したものだ」


 “ゴリアテ”。古代語で『巨人』を意味する。


「千年前、まだこの世界が魔物で覆い尽くされていた時代。人類側には敵勢力を殲滅する巨大人型兵器が存在したとされている……私の部屋にあるものは、その内の一体ではないかと過程しているのだよ」


 授業では習っていないが、魔法のルーツに関しては独学で多少は嗜んでいるクロードも聞いたことはある。

 

 千年前。人類と魔物による戦争があった。数千万を超える魔物の軍勢を前に、人類側の魔法使いは勝利し、こうして千年の間も平和な日々を送り続けていた。


今も尚、魔物の生き残りの末裔がこの世界に子種を残して繁栄を続けているようだが、魔法使いの活躍により、秩序は保たれている。


千年前。人類側に用意されていたという決戦兵器。

数百体は存在されたとする無人の巨大兵器は戦場に投下され、魔物により覆い尽くされた大地を焼き払ったとされている。


「あれ? でも確か、巨人の名前は“カテドラル”だったような気が」


 しかし、授業内容と微かに違いがある。 

 巨人には名前があった。その名は確か、カテドラルだった。


「あぁ、私がアレをゴリアテと呼んでいるだけだ。気にするな」


 刻まれた文字は何かの伝言だったりするのだろう。当時、戦争に使われていた何かの。


「私は奴を研究している」

「研究して、何をするんですか」

「決まっている!」


 目をキラキラさせながら、ロシェロは立ち上がり宣言する。


「“動かす”のさ!」


 ……決戦兵器を動かす。

 その言葉を前に、クロードは嫌な警戒を募らせる。


「ああ、待て待て。何も決戦兵器を動かして世界に戦争を仕掛けるつもりではないよ。ただ、何かに利用できるのではないかと考えているだけだ。そして、その功労賞として多額の金を手に入れてウッヒッヒとしたいだけだよ。うんうん」


 あまり良い噂がない集団という事もあって、信用しづらい。後半は欲望にまみれた言葉も混ざっていて変に説得力を感じるには感じるが。



「……実を言うとだな、動かす目途は幾らでも立っているんだ」

 テーブルを指さす。

「私は天才、だからな」

 自称天才。己を秀才と呼ぶ少女が作ったという研究成果。


「凄い、な」

 書類を手にクロードは唸る。


「おっ、君にその数式と原理解説が理解できるのかね」

「いえ、数式は全然。でも、原理は多少」

「ああ、うん。まぁ、難しいよね。流石にそのレベルは」

 ただ、書類に書き詰められた内容の濃さに驚いただけ。ビッシリと書き詰められた研究内容の豊富さに腰を抜かした。ただ、それだけである。


(ん、待て。動く巨人……?)

 ゴリアテ。

 甲冑の巨人に対し、いつの日か浮かべた既視感が蘇る。

(あっ……!!)

 そして、クロードはようやく思い出す。



「あの日! 空に現れた巨人って!?」

「ああ、五日前のかね? アレは動作実験の際に失敗してしまって空を浮いてしまってな」


 登校初日のあの光景は幻覚ではなかったようだ。実験最中の風景に出くわしてしまったようである。


「巨人の動作実験は他の場所でも行われている。だが、動かすには資格が必要でな。その資格の条件には学園の入学と卒業が必須なのだよ」


 巨人の動作実験が行われてはいるが、未だ、何処も動作に成功したことは一度もない。難易度の高い実験だと、王都の魔法学会でも有名だ。


「学園に住み着く必要がない私であるが、それを知った以上入学を余儀なくされてな……ほら、私は天才だからな。常に成績はトップだし、勉強いらずで単位を一つも落としていない」


 ロシェロが差し出したのは成績表だ。

 

 “一学年時代の成績は全て学園五位以内”

 “二学年以降も成績は五位以上をキープ”


「巨人の研究は入学前からずっとやっていたものでな」


 “授業も絶対参加のものだけ、参加必要数をギリギリ満たしている程度で出席”。


(ウソ、だろ……っ!!)


 クロードは驚くしかなかった。


 自称天才。ロシェロは己の事を“天才”と言い張る資格が確かにある。腹立たしいが、その一部分は認めざるを得ない。


「動作実験は禁じられているが、考察などは許されている。私は限りを尽くして巨人の研究を行って、入学前にはレポートを提出した。結果は上々、学会でも素晴らしいと評価されていたのだよ……」


 結果は上々。その将来、才能は実に華々しいものだった。


「だったさ……だが、な」

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