10時限目「決着【暴風転校生の結末】(前編)」
光が晴れた。
ジーン・ロックウォーカーの決闘。この光が晴れる瞬間こそ、決まって勝負が終わっている。バトルフィールドを焼き焦がした戦場には黒煙が巻き上がる。
「目、目が……ッ、どうなった!? どうなったの!?」
「……もしかしなくても分かる。勝負は決まりだ」
決着がついた。誰もがそう思えている。
「いつも通り、“ジーン・ロックウォーカーの勝利”だよ」
彼の勝ち。それは疑いようもない。
その戦場が光に飲み込まれた。クロードが放った渾身の魔術は一瞬で破られてしまい、そのままクロード自身も光を浴びた。
魔物、この世の悪の全てを掃うとされる光。
正義執行。今、この学園に現れようとした悪の火種は消火されたというべきか。
「ん、ん~……アレェ……?」
チカチカしていた目が次第に回復し、煙も晴れて戦場が見えてくる。
「___ッ!?」
見間違い。であるのだろうか。目の錯覚、なのだろうか。
アカサは目を擦り続ける。
その横で、“ロシェロもそのフードの中で驚愕の表情を浮かべていた”。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
光が晴れる。煙が消える。
真っ黒こげになっていたバトルフィールド。抉れていたクレーターも元に戻り、次第に真っ新な状態となった戦場には傷だらけの戦士だけがその場に残る。
傷だらけ。満身創痍。
“しかし、その身はまだ倒れておらず”。
「はぁッ……はぁあッ……っ!」
クロードはまだ、立っている。
しかし、もう見るからして戦える気力なんて残っていない。魔法耐性を持った制服は見るも無残にボロボロで、体も焦げカスと火傷でまみれている。
両手を前方で交差させ、その場で己の身を守ったようなポージング。
まるで、案山子のように不安定だ。
立つことは愚か、意識を保つことさえも限界が近いのだろう。
「瞬間的に防御に回ったか……まさか、耐えきるとは」
ジーンも、その姿には驚きを隠せなかった。
「見事だよ。そうとしか言いようがない……だというのに、何故なんだ」
執念、その根性。立っている気力にも目が行くが、それだけじゃない。
最後まで逃げようとしなかった精神。肉体制御、体のリミッターを無視してでも、戦いを選んだ少年の意思は、曲がりようのない素晴らしいものだ。
「何故……君のような人が“罪を犯したんだ”」
彼の言う罪。
クロード・クロナード。彼はここディージー・タウンに訪れる前は王都で学園生活を送りながら暮らしていたという。
「君が何故……“その力で人を傷つけた”?」
暴力事件。クロードの学生生活は……一つの罪によって、塵となった。
下手をすれば殺人未遂。彼がまだ学生という身柄、未遂のまま終えたという事もあって、事実上、王都から追放される形で罰を受けることになった。
話だけ聞けば……普段の彼の素振りだけを見れば、その噂通りの悪行高き不良少年であると思われる。将来、ろくな魔法使いにはならないであろう悪の種となっていただろう。
だが、ジーンはそうは思えなかった。
正直すぎるほど真っすぐな彼の姿は……とても“悪人”には見えなかった。
「……確かに、事実、だよ。僕は、身勝手で、人を、傷……つけた」
立つことさえもやっとだったはずだ。
しかし、クロードは足を引きずりながらも、ジーンの元へと向かう。ボロボロの体を両手で支えながら、痛みに耐えながら前進する。
「傷つけるのは、よくない。分かってた……でも、駄目だと、思った」
まだ、決着のゴングは鳴らされていない。
「アレは……黙ったら、駄目……だ……アレだけは……許したら、駄目、だ……」
その気になれば、ジーンはトドメの一撃を撃てる。
最早そよ風一つ吹けば倒れる体だ。それだけ容易いことだというのに。
「なぁ……僕、は、やっぱり、悪……なのかな……?」
ジーンの目の前、クロードは片腕を伸ばす。
「立場が、偉い人がやること、は……間違い。じゃない、の、か、な……」
だけど、それは届かない。
その手前で限界を迎えたクロードは戦場の真ん中で倒れる。瞳ももう光を失っている。彼の意識はそこで途絶えようとしている。
「……あ~、あ、」
前面の体を覆い隠していた両腕から力が抜けていく。
「大事な、もの、なのに……汚れ、ちゃ、って……、」
彼の腕の中から現れたのは___
己の武器である魔導書と、魔法を浴びたことで多少の焦げ目がついてしまった自前のストールであった。
「ちく、しょう……」
クロードの瞳が、そこで重く閉じられた。
「……先生」
決着がついた。審判を任されていた教員が、倒れたクロードの元へと駆け寄る。
「いますぐ医療室へ。彼の治療には、私も付き合います」
クロードの体は教員の背中へと。
真っ新な姿に戻ったバトルフィールド。勝負は想定外の出来事に困惑どよめく凍てついた空気のまま。
勝者であるジーンは、勝利の余韻に浸ることもせず、勝者としての言葉もすべて飲み込んで、教員と共にグラウンドから姿を消した。
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