10時限目「決着【暴風転校生の結末】(後編)」
決着がついたことで、会場席はざわついている。
そこらの生徒は当然の結果を前、ジーンのヒーローショーを愉しんだような感覚で盛り上がってこそいる。その中には、彼の一撃を受けて立ち上がっていたクロードの姿を見て驚く者もいた。
「……価値は、あった」
ロシェロもまた、その生徒の中の一人。
「今、私は……猛烈に、興奮と感動を隠せないでいるよ」
想定以上の連続こそ起きたが所詮はその程度。それで片付けていた。
だが、最後の最後には想定外を引き起こしたクロード・クロナードという生徒の存在に、ついには興味を示し始めていた。
「ありがとう、スカーレッダ。私を呼んでくれて、」
「……あー、すいません」
お礼の言葉を言おうと振り向いた矢先、ロシェロの視線の先。
立ち去っていた戦士達でもなく、きれいさっぱりになったバトルフィールドでもなく、全く関係もないそっぽを向くことで後頭部を晒しているアカサの姿。
「ちょっと喋りかけないでもらえます?」
その手には、アーズレーター。
アーズレーターには遠くの人間と通話をする以外にも多種多様の機能がある……今、彼女が使っているのは、アーズレーターが向けられた方向の映像を記録する“撮影モード”。
アカサのアーズレーターに表示されるモニター。映像に映る人影。
「今の私……“どうしようもないくらい、ブチギレてるんで”……!」
小太りの男が映る。
アカサと同様、会場席にいるその生徒はアーズレーターを手に取っている。
撮影。ボロボロになった彼の姿を懸命に撮影。
最後まで戦い抜いた戦士の姿を愉快に嘲笑う……滑稽な男の姿が、映っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『君のせいだよ。』
___分かってる。
『皆、君のせいでこうなったのさ』
___分かってるって言ってるだろ。
『君のせいで……みーんな、不幸になっちゃった』
___どうして、そんなにしつこいんだ。
『……生きてて恥ずかしくないの?』
___そうだよ、な。
『あーあー、君みたいな人間……“生まれてこなければ”よかったのにね~』
___僕も、何度も……そう、思ったよ。
『胸を張れ、クロード』
___どうして、さ。
『こうはなっちゃったけど……私はね、クロードは間違っていないと思うよ!』
___本当に、そう、なのかな。
『だから、自分を責めないで』
___わからない、よ。
『お前は、お前のままでいてくれよ』
___僕は。
___どうしたらいいんだよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
実に、一生のように思える夢だったと思う。
楽しい夢ほどあっという間に終わるというのに、地獄のような悪夢はどうしてこうも鮮明でリアルで、精神にも肉体にもダメージを与えてくるのか。
医療室のベッドの上。クロードは目を覚ます。
既に外は夕暮れ闇。医療室はオレンジ色の薄暗さだった。
「……」
ベッドの上。医療室。そして、鮮明に蘇る戦いの記憶。
ジーンの光に飲み込まれ、再起不能に追い込まれたのは今でも覚えている。
だというのに、何故だろうか。
「割と、傷、浅いんだな」
腕に包帯、ところどころにガーゼこそ貼られているがその程度。ブンブン振り回せるほどまだ回復はしていないが、このベッドから起き上がれるくらいには傷が治っている。
枕元に合ったアーズレーターで時間を確認する。
日にちはまだすぎていない。演習を終えてから数時間たった程度。
「凄いっしょ~。何せ、この学園の医療班は魔物退治の最前線で働いていた人ばかりだったらしいからね。中には現役もいるらしいケド~」
一人っきりだった医療室に、ノックもせずに誰かが入ってくる。
「やぁやぁ。良く寝れた?」
アカサ・スカーレッダだ。
いつもと変わらないニヤついた表情で、クロードへ無礼な挨拶を交わしていた。
「僕を笑いに来たのか」
相も変わらずの態度。
アーズレーターから手を離し、夕暮れ闇の窓の外へとクロードは視線を外した。
「……最後まで懸命に戦い抜いた戦士の負けっぷりをあざ笑う」
遠回りで帰ってほしいという態度を取っているクロードに構わず、アカサはやはりその表情のまま一歩ずつ彼の元へと寄ってきた。
「流石の私も、そこまでの無礼は出来ないかね~?」
近くにあった椅子に腰かける。
一応、お見舞いのつもりで来てくれたようだ。そうは言いながらも、やはり小馬鹿にしてるような態度を見せて。
「……意外。無礼なことしてるの、自覚あったんだ。良識あるんだね」
彼女へ目を向けないまま、クロードは受け応える。
「おいコラ待て。小僧は私がどんな人間に見えとんだ、コラ」
「初対面の男に笑いながらムッツリとか偏見押し付けるくらいにはド失礼な奴」
「あ、あれ~……そこまでヤバイことしとったか、私?」
そこに自覚はない。
やはりこの少女。人付き合いの常識面では決定的にネジが外れているのではないだろうか。
「……どうして、そんなにしてまで、僕の気を悪くさせるの」
アカサ・スカーレッダという少女が苦手だ。
今も、そして初めてあった頃からも。付きまとわれるのが不愉快である意識をこれでもかとクロードは見せていた。後ろ姿で。
「決まっとるでしょうに」
振り向けとは言わない。アカサはその後ろ姿に答える。
「これくらい強引な方が、友達作りは丁度いいってさ。特に君は、これくらい行かないと仲良くなれないってね。ビックリするくらいガード固いし」
裏表のない発言。
嘘偽りも何もない一言。確証はないが、彼女はそのつもりでクロードの問いに答えた。
「……ふふっ」
一瞬、彼は鼻で笑った。
「何、それ?」
振り向きはしなかった。だから、その表情はアカサも分からなかった。
「土足でズカズカ家に入ってくるような奴と、友達になりたいなんて思うはずないじゃん」
“愉快そうに”笑っていた。
クロードは彼女が苦手であることに変わりはないが、
この、お見舞いに来てくれた瞬間にだけ。夕闇の中一人孤独に怯えていたこの時に来てくれたことに対しては……嬉しそうな対応を微かに見せていた。
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