9時限目「風の魔導書【シカー・ド・ラフト・エアロダイヴ】(前編)」
彼が魔導書を提示した途端、数人の生徒達がざわつき始めた。
ジーンと同様の驚き方をする生徒が数名、そして、彼が提示した魔導書が一体何なのかと困惑する生徒が数名。
「ん? あの魔導書は一体?」
アカサは、残念ながら後者の一人であるのだろう。
クロードが取り出した魔導書は、緑色の本であった。
濁ったエメラルドグリーンと薄暗く、しかもススまみれ。保存状態とやらもかなり悪いようで、ところどころページが破れていたり、表紙に穴が空いていると散々。
これ以上型崩れが起きないように専用のブックカバーが付けられている。本の一部とタイトルだけは確認できるような代物で。
「おお……おおっ!? おおおおーーーッ!?」
アカサとは対照的に、日傘の少女は飛び上がった。
日傘を手放し、被っていたフードをどかす。
苦手であると思われていた日光をまともに浴びることになろうとも、素顔を露わにした少女は興味深げに目をキラキラさせている。
陽の光をまともに浴びていないのが原因か、その髪は真っ白。雪のように綺麗な長い白髪が靡く可憐な少女。
感動的な表情を浮かべる彼女は、見た目相応の少女らしい素顔を露わにしていた。
「何という事だっ! まさか、こんなところでお目にかかれるとはッ!」
「えっと、先輩? 一人でオーバーヒートしてるところ悪いんですけど……アレ、そんなに凄いものなんです?」
「ああ! 凄いものだ! ヤバイぞ、スカーレッダ君! 今、私は久々に、この学園に入学したことを実にラッキーだと思えたッ!!」
凄いモノ。これだけの興奮ぶりを見るとそれは分かる。
「アレは……古来の魔導書【シカー・ド・ラフト・エアロ・ダイヴ】」
「え? シカト、トランプ、エアータップ?」
長すぎる故に聞いたことのない名前にアカサは首をかしげる。
「すみません。おバカな私でも分かるように、どれくらいレアなのかだけ教えてもらっていいですか?」
「あれは風の魔導書の中でも最上級であり最高難易度と言われた代物……」
注文通り、分かりやすいように貴重さだけを口にする。
あれは、原初の魔導書を真似して作られたコピー品なんて安物なんかじゃない。原初の魔導書その中でも”かなりレアな一品”。
「“五冊しか作られなかった”という……発見さえも困難な代物だッ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シカー・ド・ラフト・エアロ・ダイヴ。
解析された歴史の中、その魔導書は“風の魔導書”の中でも最高難易度と言われている代物で、『解読・入手・発動』のいずれも困難。
「……君は、想像以上の天才のようだ。その魔導書の解読、余程の努力をしたと思われる」
ジーン・ロックウォーカーも魔法世界の歴史は深く追求していた。
魔導書シカー・ド・ラフト・エアロ・ライヴの存在は勿論知っており、見つかれば数億は飛ぶ額。魔法研究の最先端である王都でさえも、その魔導書は“二冊程度”しか保存されておらず、厳重保存されているという。
魔法研究の学会でさえも、その魔導書の発動は困難と言われているようだ。
「“しかし、妙だな”」
クロードの想像以上の才能に驚きこそしたが、同時に疑問も覚えている。
「“その魔導書、その程度の力ではないはずだが”」
最高難度の魔導書。そうともなれば、内に秘める“それ”は、そこらの魔法使い全てを凌駕する。
「君が手加減をしているのか、それとも、」
発動された魔術こそ強力なものであった。
だが、その魔導書の真の恐ろしさの片鱗を知っている彼だからこそ言えるのか、その疑問に対する二つの答えを提示した。前者が彼の気持ちに関する原因。
「“君がまだ、その魔導書の解読を完全には出来ていないのか”」
「……っ!!」
クロードは態度も何もかも正直に表に出てしまう性格のようだ。
ジーンが提示したもう一つの可能性。それは……クロードがまだ、その魔導書の真の力を発揮させることが出来ていないという、彼自身の問題の掲示であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます