8時限目「ロックウォーカー家の秘伝【ジャスティス・ライト】(前編)」


 光り出す。

 ジーンの手のひらの中で“黄金の球体”。光の集合体が出現する。


「いびつな風を飲み込もう!」


 攻撃態勢。会場席の熱狂の声。

 正々堂々とした魔法同士のぶつかり合いが始まる本当の合図。クロード・クロナードの攻撃に対し……ジーン・ロックウォーカーが迎え撃つ!



(反撃開始ですかっ、ジーン・ロックウォーカーッ!!)

 当然、アカサは見逃さない。


 知っているからだ。ジーン・ロックウォーカーの手の平の中で集結する光の正体を。この学園で彼の攻撃手段を知らない者は、一人としていない。


この世の闇をすべて飲み込む光ジャスティス・ライト……“ロックウォーカー家の秘伝”の魔術!)


 そうだ、これこそが。

 手のひらで肥大化しつつあるエネルギーこそが。


 “ジーン・ロックウォーカーの光の魔法”。

 

 最初は挨拶程度。その身を直接狙うわけではない。

 これは魔法による戦闘の実技演習。となれば、魔法同士のぶつかり合いを演出しないで何の参考になろうものか。挑発にのって放たれたクロードの割風砲に対し、放つ。


「穿てッ!」


 光の球体。それは標的である竜巻と比べるとあまりに小さい。外見だけ見れば、彼の滑風砲に飲み込まれ散り散りに消える事だろう。


 見た目がすべて、とは限らない。だが、今この場にいる生徒全員が予感している。



 “クロードの魔術は粉砕される”と。

 



「……ッ!?」


 ただ一人、怒りに我を忘れていたクロードだけが反応に遅れた。慢心も含まれたが故に、目の前の現象に体の反応が間に合わなかった。



 “逆に、飲み込んでいく。”

 ジーンが放った光の球体は、逆にクロードの風のドリルを貫通し。その竜巻を内側から粉砕、そのまま標的であるクロードへと突っ込んでいく。




 グラウンド全体が一瞬だけ光に包まれた。

 直撃した。光の球体はその肩書き通りに標的を飲み込んで見せたのだ。




(やれたか?)


 光が晴れると、今度は茶色い砂ぼこりの霧が立ち込めている。

 まだ確認は出来ない。砂ぼこりも濃すぎてクロードの影を確認できない。無事なのか、今の魔術でノックダウンされたのか。この一瞬では視認負荷だ。



(……否ッ!!)


 言ったはずだ。今のクロードは“殺意に満ちている”。

 故に、その魔法。察知はどことなく、その距離からでも感じ取ることは出来る。





 “茶色の竜巻ドリルが迫る”。




「来るかっ! クロナード!!」


 クロードが霧の中から放ったのだ。まだ彼は倒れていない。

 割風砲デス・ガルダは射線上に立ち込めていた砂の霧を飲み込み、砂利まみれの竜巻ドリルを作り上げていく。


「まだ墜ちていないなッ! 貴様もその風も!!」


 しかし、それだけ見た目が派手になれば、回避はより容易い。

 ジーンは飛んできた竜巻のドリルを回避し、反撃の光を放つために手のひらを砂の霧へと向けていく。


「……むむ?」


 “だが、許さない”。

 次の反撃の機会を……“あの男は与えるつもりはない”。




 “ドリルが二つ”。





 “ドリルが三つ”。





 “ドリルが四つ”。




 いまだに残っている多少の砂ぼこり。それを巻き込みながら数発の割風砲デス・ガルダが、ジーン目掛けて牙を剥く。


「なんとっ……一瞬で数発もッ!」


 この一瞬で一発と言わず四発。


「想像以上だ……っ!」


 いや、五発。六発。七発……反撃の機会を与えはしないと言わんばかりに、次々と攻撃の波が押し寄せる。


「クロード・クロナードッ!!」


 これだけの風が鼻たれ、砂埃の霧が晴れていくと……両手を前方へ向けるクロードの姿がようやく確認された。


 “彼もまた無傷”。

 光の球体を正面から受けたはずなのに、何食わぬ顔でジーンの撃墜に集中していた。


「だが、それだけ大振りな攻撃の連続……」


 しかし、目には見えない攻撃だろうと、視認さえ出来てしまえば回避は楽だ。それに乱射している分、出力も落ちているのだろうか……先ほどと比べ範囲は狭く、威力も落ちているように思える。


 何より、想像していたよりはスピードが遅い。


「隙だらけだっ!」


 ジーンは片手に光を纏う。

 まるで腕そのものが剣になったようだ。拳に纏われた黄金の光は飛んでくる竜巻のドリルを粉砕しつつ、俊足のスピードでクロードへと迫ってくる。



「ちっ……!」

 クロードは迎撃で必死なのか、魔法の乱射を止めない。

 数で勝負を決めるつもりのようだ。しかし、無理を悟っているのか、悔しそうな表情に出てしまっている。


「その首貰ったッ!!」


 攻撃範囲可能距離。

 一瞬で距離を詰め……次の攻撃の発動のため無防備となっているクロードの眼前へ到着。



 ジーンは彼の体に、剣となった己の光の腕を突きつけようとした。



「……ッ!?」


 それで終わり。直接身体を裂けば終わり。



 ____“のはずだった”。



「……ほほう」


 しかし、ジーンはそれをしない。

 彼の光の腕は……クロードの体に触れる数センチ手前でピタリと止まっていた。

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