5時限目「深まる謎【優等生クロナード】


 十分後。裏庭。

 あれだけ大惨事になってはいたが、教徒や保健員などの活躍で、ある程度は修復出来て立ち入りできるようになっている。


 やはり、この庭での一件は騒ぎになっていたようだ。今も犯人を捜しまわっているようだが見つからないとのこと。

 当然、クロードは見て見ぬフリで聞かぬフリ。全く関係ありませんと言わんばかりの表情で流すことにする。


 一人で昼食のサンドイッチを食べようにも場所が見つからない。というわけで結局裏庭のベンチで黙々と食べることになったクロード。



「……どうして?」


 サンドイッチをハムスターのようにモグモグと。

 クロードは理解が出来なかった。何故、こんなことになったのかと。


「いやぁ~。注目されてるねぇ~。人気者になれるチャンスじゃん?」

「……なんで、お前がいるんですか」


 ベンチのすぐ真横を陣取って、弁当箱を開いている“アカサ”にも疑いの目を向ける。


「あ、アレ? その言葉、私に向けてる系?」

「……それ以外に何があるんですか」


 全く歓迎していません。クロードはより頭を痛めていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『待ってください! どうして僕なんです!?』


 デモンストレーション。演習の再現の役者に選ばれたのはまさかのクロードだった。

 何故こんなことになったのか。少なくとも演習だなんて目立つマネはしたくないクロードは断固辞退したいと姿勢を見せる。


『まだ、この学院の右左も分からない一年にやらせることではないでしょう!?』

『クロナード君~。聞いたよ~?』


 先生は何の悪気もない満面の笑みをキラつかせながら理由を言う。


『君、向こうでは入学三か月の地点で成績優秀。教諭からも一目置かれていた“期待のエリート”と言われていたみたいじゃないか。いやぁ、思ったよりも優等生でびっくりだ! その実力、是非とも見せていただく』


『誤解です!! どこ情報ですかソレ!? 僕、平凡ですよ、平凡! ザ・平凡! 平凡を極めた平凡の王ですから!?』


『ほっほっほ、そこまで強く謙遜するとは余計に気になるなぁ~。まぁ、決まった事だから……対戦相手については後に伝えるから、ゆっくり昼は体を休ませておくといい。じゃあな』


『待ってください先生ッ! 先生ィイイイーーーーッ!!』


 片手を伸ばして去っていく先生を呼び止めようにも、ステップを踏みながら優雅にこのクラスから立ち去って行ってしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 というわけで、強引に決められた。

 イライラどころかグッタリとする。近づく五時限目、既に彼は疲れ切っていた。


「しかし、私はもう驚かなかったぜ~? 五人がかり相手に片手を突き出すだけで一網打尽! エリートの匂いはプンプンしてたし~?」


「ねぇ、実はアンタが話を広めた、とかじゃないですよね」


「え? んなわけないじゃん? アレからずっと一緒にいたじゃん? 私が君の事をベラベラと喋るチャンス何処にあったじゃんよ?」

 

 容疑者の三段張りの弁論が行われる。


「テレパシーとか。相手の思考を読んだり、共有したりする能力とか」

「んなこと出来たら、今頃私は学園成績トップじゃ、くそったれ」


 そんな便利な能力を持っていたら問答無用で悪用すると言い張ったアカサは弁当箱の卵焼きを口に放り込む。


「何より、言ったら、“アンタ”が困るんじゃない?」


 アカサが話を広めたわけではないようだ。現にアカサ自身も、彼がちょっとした有名人だったことはさっき知ったような発言をしたのだから。


「それくらいの気づかいは出来る人間なんですよぉ、私って女はねぇ」


(一体、誰が……?)

 

 クロードは心の奥底から、不安に思っていた。



 “どこの誰かが、自分のすべてを喋ったのか”?

 ”教師にも喋っていない部分を、どこから情報を仕入れて”?

 ”元からその情報を知っている人間なのか”?


(何を、どうして、そんなことを……?)


 “だとしたら……なぜ、何を狙って、それを喋ったのか”?

 

 ”【それ】を分かったうえで、なぜ、このような真似をする”?


 不安。不安。不安。

 クロードはサンドイッチを口にし、震える心臓に手を伸ばす。





「失礼する」


 昼食の時間。二人っきりのベンチ。


「……クロード・クロナード君。で間違いないかな?」


 こんな寂れた裏庭には似合わない、綺麗な真っ白のスーツ姿。その上には学院の制服のブレザーがマントのようにかけられる。



「……???」


 またも、首をかしげながら顔を上げたクロード。


「食事中失礼」


 ブロンド髪の長髪。片手には脱いだハットと、綺麗に磨かれたステッキ。

 靴に手袋も綺麗に施された姿は紳士そのもの。整った顔立ちは控えめに言っても“童話に登場しそうな理想の王子様”。


「君と、話がしたい」


 オーラが違いすぎる。

 明らかに住む世界の違う謎の男子生徒が、クロードに話しかけてきた。

 

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