4時限目「時代のルーツ【子供でも分かる現代魔法】」


『で、あるからして、旧人類と古代文明の衰退により、次に変わる戦力・エネルギーとして魔法という存在が生み出されたのです』


 クロードのクラスの担任。腰の低い老眼鏡の男性教徒が淡々と黒板に文字を書く。


 四時限目が始まった。

 最初に座学で習う事と言えば、この時代においては存在が当たり前となった“魔法のルーツ”であろう。魔法学院に身を寄せる生徒であるならば“常識”ともいえる学習課題だ。


 魔法、というものは既に目にしていただいたとは思う。

 クロード・クロナードが不意打ちに発動した“見えない何か”。男子の不良グループが使っていた炎の魔法。


 あれが魔法である。

 

『人間は数年の歴史のうちに、肉体に“魔力“なるエネルギーを自然と秘めるようになりました』


 この世界の人間であるならば、何人かは魔法と隣り合わせの生活をしている。

 現にクロード・クロナードも同じだ。


『しかし、すべての人間が魔法を使えるわけではありません』


 ……この世界の魔法とは、各個人が所有する固有能力のようなものである。


 肉体に宿る魔力によって、各個人使える魔法には違いが現れる。炎を扱うか水を扱うか、雷を扱うか風を扱うか……中には、空を飛んだり、体を別の何かに変形させたりなど、多種多様。


 

 この世界の人間全員が、その内に魔力を秘める。

 だが、黒板の前で講義をする教師の言う通り……“全員が魔法を扱えるわけではない”。


『理由は二つあります。一つは単純な話、扱い方を間違っているか……そして、もう一つは“その魔力そのものが能力としての活用方法がない、ただのエネルギー”であること。後者が多かったとされていますね』


 魔力によって異なる能力が生まれると言った。


 ただし、個人によっては、魔力から能力が生まれないというケースが多数ある。


 肉体は魔法を扱える準備を終えているが、扱い方を間違っており、膨大な魔力も宝の持ち腐れになってる例もあった。


『そんな人間にも魔法が扱えるよう、マジックアイテムが開発されたのです……古代文明においても、全人類が魔法を発動できる基本となり、今の時代でもノーマルの存在となったのが“魔導書”ですね』


 能力を扱えない悲しい人間の為に、救護措置は当然行われたという。


 それがマジックアイテムの開発……“魔導書”である。


(魔導書、か)


 魔導書については、クロードは授業を終えているのでよく分かっている。


 魔導書とは、この世界に数千万冊が存在を確認されており、それぞれに異なる能力が記録され、保存されている。魔導書は記録された魔法を再現することが出来る万能器具なのだ。


 それを発動させるために必要となるのが、人間の肉体に宿る魔力だ。車で言うエンジンのようなものとなる。


この魔導書の存在により、ほぼすべての人間が魔法を扱えるようになったのである。


(だけど、それが解読できなければ意味が、ない)


 ほぼすべて。そう、全員ではない。

 魔導書は便利ではあるが、これもまた、誰もが全員扱えるわけではない。魔導書の扱いは難易度が低いモノが多いが……扱い方が分からない人間だって多数いる。


 魔導書の仕組みを利用して、記録されている文字とルーツ。その全てを理解する。


 魔導書の全てを理解しなければ、百パーセントの力を発揮することが出来ない。


 面倒なのは、魔導書がその人物の魔力に“適応”しているかという条件もある。


『区分として、魔法には二つの種類があるということです。マジックアイテムを必要としない天然物の魔法を【魔衝】、マジックアイテムを利用して発動する魔法を【魔術】とカテゴライズします』

 

 魔導書は万能ではあるが、百を叶える代物でもないというわけだ。


『千年にわたり、魔導書は今も年に数十万近くが存在を確認されていますが、それでも10分の7以上が破棄、消滅されたと言われてします。しかし、我々人間の技術革命は進み、魔導書の模造品の開発にも成功し、』


「ふぁ~……」


 さっきも言ったはずだが、クロードは既にこの授業は経験済みである。


 先生の言いたいことをクロードは理解している。

 魔導書は古来より発見されたもののほかにも、それを“真似して作った模造品”も多数存在することだ。本家の魔導書よりは出力は落ちるが、それでも十分な魔法発動へと告げてくれる万能なアイテムと言う話。


 わかっている。知っている。

 だからこそ、退屈で眠くなる。寝不足も相まって、イライラも募っていく。


「おいおい~、授業初日から居眠りは怒られるぜ~?」


 横の席から、羽根つきのペンで突いてくる生徒。

 赤髪のエクステの髪が揺れるロックンロール女子生徒。


(いらいらいらいらいらいらいら……!!)


 女子生徒のちょっかいが、より彼をイライラさせていた。


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それでは昼休憩に入る。昼食を終えたら、実技授業だぞ。遅刻をしないようにな」

 午前中はほとんど座学で終わった。寝不足のクロードには厳しいスケジュールであったと思う。退屈な四時間を過ごし、よくも耐えたものだ。


 次の休み時間。クロードは昼飯を軽く終えたら一睡するつもりである。寮に戻って、次の授業が始まるまで。


「……それと、今日は演習見学を先に行う。魔法による戦闘訓練。白兵戦のデモンストレーションの見学だ」


 どうやら、誰かが実際に魔法による戦闘を演出してくれるそうだ。田舎の学園にしては割と贅沢である。


 魔法は魔物退治や盗賊撃退など自衛としても使用する。前述のとおり、人間相手にやむを得ず使用するケースもあり、いずれ自警団やギルドに属する者は“魔法を使う悪人や組織”とも戦うことになる。


 人間同士の魔法戦闘はデモンストレーション。実に興味がある。クロードの眠気は少しばかり冴えたような気もした。


「デモンストレーションには私達のクラスの生徒が一人選ばれた。その生徒は、クロード・クロナード。以上だ」


 ___楽しみさせてもらうことにする。

 クロードはチャイムと同時、静かに席から立ちあがった。




「……んん~?」


 気のせいだっただろうか。

 クロードは立ち上がったと同時に動揺が止まらなくなる。


「そういうわけだ! 頑張るんだぞ! クロナード君!」


 先生は笑顔で親指を突き立てグッドサイン。彼を賛辞した。



「……んんんん~~~~!?」


 気のせいではなかった。

 クロード・クロナードの苦悩は、収まる気配がなさそうだ。

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