3時限目「魔風技【デス・ガルダ】(後編)」


 直撃。爆散。

 中庭で大きな花火が出来上がる。


 半壊していたレンガの花壇が爆風で完全に爆散。肥料も校舎の屋上に届くほど飛び上がり、チューリップは微塵も残らず灰になった。


 真っ黒い焦煙が、あたり一面を包み込む。


「……決まったぜ」


 攻撃をまともに浴びたのは視認出来た。クロードの肉体がどうなったかのかなんて、確認しなくても安易に想像できるものだ。

 正面から受け止めれば吹っ飛ぶのは確定だ。きっと今頃、この学園の何処か、或いは学園の外の通学路でサッカーボールのように転がっているに違いない。


「さてと、今度こそ写真を撮らなきゃな」


 近くに放り捨てたカメラを男子生徒は拾い上げる。

 慌てて放り投げたせいで砂まみれである。軽くはたく為、カメラを数度揺らしておく。動くかどうかの確認もしっかりと。








「“学園一の火力が何だって”?」


 “カメラに気を取られたのがこの男の運の尽き”。


「___飛べ。」


 “確認もせずに背中を思いっきり向けてしまったのが運の尽き”。


 いや、そもそもの話。

 “イライラ度数のゲージが高いタイミングで喧嘩を売ってしまった地点でもうダメだ”。


「え、」

「___割風砲デス・ガルダ


 勘が鋭いのが取り柄だとは言っていた。現に彼は気が付いた。


 しかし、手遅れだ。

 “もう、クロードは、人差し指一本分の距離まで近づいた。”。




 逃れることはもうできない。



「……ノォオオオオオオオオッ!?!?」


 吹き飛ばされていった連中と全く同じ悲鳴。そして全く同じ方向。

 カメラを持ったまま、男子生徒は裏庭の外へと“やはり横に回転しながら”、打ち上げられた野球ボールのように遠くへと行ってしまった。


「___はじめまして、先輩方。二度とツラ見せるな、ド畜生」


 終わった。

 突然の奇襲戦……クロード・クロナードの勝ちで終わりである。


 彼は勝利を宣告し、男達を睨みつけるように、親指を真下に突き付けていた。



「ひぇええ……やっぱ気のせいじゃなかった系? いきなり吹っ飛んだの」


 影からこっそりと、アカサが現れる。

 無事、問題ごとは解決した。一体何をしたのか、本人に聞くため近づこうとする。



「___じゃ、さらばっ!!」


 中庭で出来た巨大なクレーター。あちこちにチューリップの燃えカスや肥料の焦げカスだったりと悲惨な光景。そして、姿を消した五人の生徒達。


 その原因の主犯の一人、クロード・クロナード。

 当然、騒ぎになる前にその場から全速力で撤退を開始する。


(冗談じゃない……っ! あれをやった犯人が僕だと勘違いされたら、困る!!)


 全ての主犯であると勘違いされる前にトンズラする。運の良い事に教員や他の生徒など目撃者は誰一人としていない。変な疑いをかけられる前に逃走。


(正当防衛とはいえ、通るかどうかなんてわからない……っ! 一刻も早くあの場から遠く離れて)

「ねぇねぇ~!? 今のってさ!? あの生徒達を吹っ飛ばした技ってさ~!?」


 少年は完全に“忘れていた”。


「やっぱり、君の“魔法”なわけ~!?」


 目撃者、いたじゃないか。

 集中していなかったからアウト・オブ・眼中であったが……あのテンション高い無礼者ロックンロール少女がいたではないか。クロードは頭痛を起こす。


(……今は離れよう。出来るだけ遠くに。でも、この人が何処か遠くに行かないように)

「教えてくれたっていいじゃん~! さもないとさぁ~!!」


 早走りでその場から去ろうとするクロードを追いかけるアカサは口にする。


「……あの庭の出来事、ちょっと情報改竄しちゃったり?」

「(ぷっつん)」


 今、一瞬、頭の中で何かがキレた音が聞こえた。

 イライラ度数はたった今170%から、より上昇……ギリギリ鎮火しかけていた火種に油を注いだのだ。



「___はぁっ!」


 急停止。 

 そして、少女に向かって“片腕”を突き出す。


「うわわわわっ!? ストップ! ストォオオオップ!? それはちょっとヤバい系じゃなくて~~!?」


 両腕で顔面をガード。

 即座に大地を踏みしめ、吹っ飛ばされないようにと身構えた。



「……割風砲デス・ガルダ。名前は僕がつけました。本当は別にあると思うんだけど」

 クロードの片腕。それは、アカサのすぐ手前で止まる。

 魔法を放つつもりはないようだ。単なる脅しである。


「敵を吹っ飛ばす技、とだけ言っておきます」

「そ、そう……?」


 アカサがそっと目を見開くと、そこには血管を眉間に浮かせるクロードの顔。


「貴方が欲しがってる興味の一つは教えました。もう十分でしょう。構わないでください」


 彼なりの警告、もし言葉を間違っていれば、“脅しでもなんでもなく、あの男たち同様に体を吹っ飛ばしていただろう”。


「それじゃあ」


 再び、クロードは早走りで教室へと向かっていった。


「ちょ、ちょっと待って! ねぇ!? なんで、火の玉を正面から受けて無事なわけ~~!?」


 まだまだ疑問は尽きない。

 どのみち帰る場所は一緒。同じ教室へと二人は走っていく。



(……あっ、この歌)


 最中、学園中に歌が聞こえてくる。


(急がなきゃ)


 覚えている。

 このワンパターンなリズムばかりの歌は……この学園の“チャイム”だ。

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