1時限目「ようこそ【奏多の魔法街】(前編)」


 ___はい、というわけで、これから物語が始まるわけですが……

 ___正直、あの場から始めるのには些か収拾がつかないと、僕は思うわけです。


 ___あの白衣幼女は何者なのか。バギーで吐きかけた少女は誰なのか。

 ___あのクールで大人なカッコイイ先輩は誰なのか。



 ___そして、僕は誰なのか。



 ……時はざっと、数えて一か月ほど前にさかのぼる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 歴2001/6/25。


 ここは、とある田舎街。その名はディージー・タウン

 魔法石を砕いて構成する魔衝燃料とやらが流通しているこの時代で、古き良き文化を第一としているのか蒸気機関をしようした列車が動いている。


「はぁッ……」


 列車の中、眼鏡をかけたストールの少年はイライラしていた。


 この独特の蒸気音。レールを移動するたびに聞こえる耳障りな音。外の景色はのどかな草原が見えるのだが、ビックリするほど居眠りをしたい心地にならない。



 今日は早起きをしていた。

 昼前には目的地に到着し、向こう側の新しい住宅の確認。それが終わったら“お世話になる学園”へ挨拶に行かないといけない。


 実にハードスケジュールであった。故に眠りたいのだが“寝られない”。


「寝れない……」


 アクビが止まらない。目も痙攣している。しかし、その理由は緊張だけではなく、既に目的地が近いため、寝過ごさないようにするという意思もあるからだ。


「すいません。切符の方を」


 そんなイライラの中、車掌が声をかけてくる。


「……あ゛あ゛ッ?」

 明らかに人前でやるものじゃない顔を見せてしまう少年。

「あっ、えっと……すみません。これですか?」

 直ぐに我に返り、少年は切符を出す。


「はい、確かに」

 切符にチェックを入れる。


「見かけない子だけど、もしかして観光かい?」

「……いえ、今日からディージー・タウンのほうへお引越しを」

「ほう、そうかい」


 あんな無礼な対応をしたというのに、車掌は笑顔で新しい住民を出迎える。

 

「ここは良い街だよ。田舎ではあるけれど、都の最新の技術は勿論、古来の魔法研究に対しても専念的。王都の学会からも支援金を譲渡されたりなど……研究や勉学へ励む分には暇はしないさ。遊べるところが少ないのは若者に厳しいかもしれないけどね」


 随分とお優しい車掌さんはディージー・タウンについて軽く説明してくれる。


 ___だが、それは知ってる。

 前情報である程度は街の事を知っている。少年の目は尖ったままだった。


「……君はもしかして、田舎の空気は好きではないかな?」


 随分と苛立っていた表情だ。車掌もどこか不安げに訪ねてきた。


「あっ、いえ、嫌いじゃないです……むしろ好きですよ、とても静かで、穏やかで」


 社交辞令でも何でもない。実際、少年はこの静かな空気は大好きである。それに彼自身やりたいことが出来るステージではあるため、不満も何もない。屈託のない少年の感想である。


「どうして、こっちに引っ越しに?」

「……色々ありまして」


 車掌さんが気を利かせてくれて会話をしてくれたことで良い暇つぶしになった。


「ええ、色々と……」


 こっちに引っ越した理由。まだ、思春期の少年がたった一人。

 その理由は語ろうにしても……進んで説明したくない。そんな表情だった。


「曲が聞こえますね……クラシックなのか、それとも」

「ああ、一定のリズムが続く方はチャイムだよ。ディージー・タウンでも有名なエリート校のね」

「ほかにも曲が聞こえるような」

「ここは音楽文化に豊かなところあるからね。外で演奏会するくらいだから、夜中にならない限りは耳から離れることはないと思うよ」


 一つ変わった街の風景。街の文化。


(……始まる)


 寝不足のイライラも、この曲を聴いていたら多少は癒されるだろうか。車掌との会話を終えて、少年は窓際に姿勢を傾けている。


 




 ___『お前は良い奴なんだ。』

 ___『だからさ……』


 体が落ち着きを取り戻す度、聞こえてくる。


 “忘れはしない”。

 “大切な……それはきっと、僕にとって大切な、声”。


___『お前が大事にしてる夢、諦めるなよ。』

 ___『叶えてくれよ___』



「やり直せるのかな……この、街で」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ___後日。


「……サイズ、間違えたかな」


 新しい家。学生寮の自室で少年は呟く。


 まだ荷物整理が終わっていない段ボールの山の自室。軽い身だしなみのチェックを行うために出しておいた鏡を前に、少年は服装をチェックする。


 眼鏡をかけ、髪形を整え。

 “季節外れのストールを羽織る”。


 もしかしなくても、そのストールは女性用ではある。



だが、彼は特に気にすることもない。



「まぁ、いいか」


 ホッと息を漏らし、玄関へと向かう。


「……おっと、いけない」

 玄関を出る前に彼は忘れものに気づく。

「“これ”だけは忘れちゃいけなかった」

 彼は段ボールの中から“大切なもの”を取り出す。


 それをブレザーの内側に用意された“専用のホルスター”にセットする。眼鏡もしっかりと拭いたところで、ストールの少年は向かう。



 魔法研究においては、この田舎町では最先端。


 ディージー・タウンのエリート校……“ラグナール魔法学院”へと……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る