<希空> と <奏多> と <魔法学青春誌[スプリングノート]>
九羽原らむだ
”青”の章
第一部 クロード・クロナードという男
0時限目「プロローグ ~なんて愉快で痛快なビーバップ~ 」
「はっはっはーッ! ノっているかね、諸君ッ!」
拝啓。この風景を眺めている皆様方。
「私は興奮真っ最中だとも! もはや、私達を止められるものはいない! なぁ、そうだろう!!」
突然すぎて何が何やらと、混乱している方も多いことでしょう。
僕の名前はクロード・クロナード。
魔法使い見習いであり、ラグナール魔法学園に通う一学生です。
今は放課後。生徒達はそれぞれ、自身の研究だったり、遊びに出かけたり……青春真っ盛りな午後を送っている真っ最中でございますが。
「ロシェロ、トーンを落とせ。折角の風が台無しだ」
そんな中、僕たちは何をしていると言いますと……
”現在もれなく、全力突撃のオーバーヒート状態でございます”
「ちょっ、まっ……ねぇ、早すぎません? ちょっとばかり早すぎません? 気のせいじゃないですよね? ねぇ?」
……これだけでは、何がどういう意味では分からないだろう。
では、今この状況を、僕が簡単に解説するとしよう。
”街の中を豪快にかけ回す暴走バギー”。
”そこに乗っているのは魔法学園の制服姿の男女四人”。
”その男女四人の中のうち一人が僕”。
”もれなく、その暴走運転を体験中。後部座席で白目をむいています”。
「見ているかね、クロード君! 私の運転も見事なモノだろう! 近所のカーレース大会にて、あまりの速さに失格となってしまった私の力なのだよ!」
”ハンドル”のない運転席。代わりについているのは小さな魔法石。
それに対し、両手を掲げているのは白衣姿の少女。小柄で白髪の女子生徒はこんな見た目でも一年先輩のロシェロ・ホワイツビリーさん。
「いや、単に暴走運転が何やらで失格になっただけでは……ぐおおおおっ」
その隣の座席で唸っている赤いメッシュが特徴的な長髪の女子生徒の名前は、同僚のアカサ・スカーレッダ。
実をいうと、さっきまでロシェロ先輩同様テンションが高かったのですが……ご覧あれ、今となってはブルーベリーのように顔が青い。
「おい、ロシェロ」
後部座席。僕の隣に静かなまま座っている先輩、ブルーナ・アイオナスさんが特に表情も歪めぬまま、前方の暴走運転手に質問をします。
「しっかりと人を避けての運転。加速をするのは別に構わないが……これだけのスピード、止める手段はちゃんとあるのか?」
「わっはっは」
ブルーナ先輩の質問に対し、ロシェロ先輩は笑い声をあげる。
「……どうやって止めようか。これ」
悲報。我ら、たった今をもって、テロリストに転職。
ノンストップの暴走バギー。止める手段もない車はただただ、まっすぐに突っ走り続け。あらゆる障害物を破壊しながら進んでいく。
酒場、魚屋、工具屋。お店の中に突っ込み、壁を突き破りフルスピード。
宣言通り、止められる者は誰もいません。
「街に出ますよ!?」
「……丁度いい」
気が付けば、バギーは街の外へ続く門へと近づいていた。それに気づいたブルーナ先輩が静かに立ち上がる。
「ここで降りるぞ。止められないのなら、そうするしかあるまい」
ブルーナ先輩が何の躊躇いもなく飛び降ります。
「賛成ッ!」
アカサ・スカーレッダも降りる。
「……ちいっ!」
僕も続いて、バギーから飛び降りる。
「むむぅ。名残惜しいがお別れだ。さらばだ、ホワイツビリー式エレクトリックエンジン君8号。外の世界でも気高く生きてゆくのだぞ」
ロシェロ先輩も、ハンドル代わりの魔法石から手を離し、バギーから飛び降りる。
運転手、搭乗者を失ったバギーが門を突っ切る。
そのまま広大な大地へと一直線。バギーの姿はあっという間に見えなくなりましたとさ。
「はっはっは。停止は出来なかったが、これだけのパワーなら実験は成功だ……我々の計画の成功に近づいたものだろう!」
ロシェロ先輩は大笑い。
「はぁはぁッ……冗談きちぃ……死ぬかと思った……!」
アカサ・スカーレッダは地に両手を着けて、息を吐く。
「同感だ。なぁ、クロナード、お前はどう思う?」
ブルーナ先輩は一人黙り込んでいる僕に問いかけてきました。
「正気やってんのか……ッ!!」
浮き出る血管。僕はただただ、背中越しに伝わる街の惨状を生み出した連中へ、静かなブチギレを見せるしか出来なかったとさ。
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