俺と君と金持ちのガキの三重奏をコンビニで
碧乃満月
第1話
「コンビニでちょっとエッチな本読むのって恥ずかしくないですか」
俺はギクッとして雑誌を持ったまま視線を声のした方に向けた。
誤解のないように言っておくと、表紙が水着の可愛い子ちゃんだっただけで、俺の持っていたのはいたって健全なマンガ雑誌である。
これから俺の1日のうちで最大にして最高のイベントが待ち受けているというのに、いかがわしい雑誌を手に取れるはずがない。
ギクッとしたのは話しかけられた内容にやましいところがあったわけではなく、それを口にしたのが小学生になりたてぐらいの子供だったからだ。
身体にそぐわない大きな青いランドセルを背負ったガキが、堂々と夜の9時にコンビニをうろついている。
深夜とは言わないが、子供がコンビニに来る時間ではないし、普通知らない大人にひょいひょい話しかけるか?
「…あー、これ普通の漫画だよ。」
パラっと中身を見せてやると、小学生のガキはふむふむなんて言いながら興味深そうに覗きこんできた。
やばい。
なんかよくわからないが、たぶんこいつ面倒なやつだ。関わり合いになりたくないぞ。
どうでもいいけどランドセルが非常に邪魔である。
面倒なガキなど放っておいてさっさと帰りたかったが、そうはいかないのが苦しいところだ。
「君、小学生だろ。もう夜遅いから帰ったほうがいいよ」
俺がそう言うと、ガキはけろりとした顔のまま右手を顔の横に持ち上げて申告した。
「お構いなく。僕は人生の重大な局面に直面してここにいるのです。」
なんだこのくそ生意気なガキは。もう無視だな、無視。
「あ…そう。じゃあね」
俺は手元の雑誌にまた視線を落として、見ず知らずのガキを思考の外に追いやることに決めた。
ガキは相変わらず俺の雑誌を覗き込んでチョロチョロしてくるが、鉄の意志で気にしないことにする。
ガーッ。ピロンピロン。
自動ドアが開き、コンビニに1人の女性が入ってきた。
肩まで伸びた栗色の髪、すらりとした手足、ベージュ色のカーディガンに臙脂色のスカートが秋らしくて可愛らしい。
彼女だ。
俺と君と金持ちのガキの三重奏をコンビニで 碧乃満月 @ao_iwanami
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