熱情

音大に行かせるつもりだった先生のもとでずっと修行していたから私はベートーヴェンのソナタばかりひたすら弾くことになっていた。心のバランスを崩し、不登校になっていった私の心の悲鳴は誰にも届くことはなかった。ただピアノの音色だけが、諦めずにやり続けてきたということだけが確かだった。中学を無事に卒業したが出席日数が足りず、自分は普通の高校へと進学することはかなわなかった、先生はお前が進学校へ行かないのはどう考えてもおかしいと言ってくれた。でもこれが選んだ道、病気だったのだから仕方ない。そして進学しないことが明らかになると先生の態度は豹変し、私は先生を変わることになった。あなたは今まで何をしてきたのと言った先生のところだ。楽譜を読めることはなにも凄いことではないと先生は言った、私は一度も楽譜が読めることが凄いと思ったことなどないし、ピアノが弾けることに誇りを感じたことなど一度もなかった。ただあさってな先生の思惑が、悲しくて、また自分が情けなくて、ただピアノに怒りをぶつける日々。そんな弾き方をしていて指を壊さないわけがないのだった。あれから熱情はあまり弾いていない。

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