エリーゼのために

私が演奏で少し名前が売れた頃、母の知人や親戚からピアノを教えてほしいと頼まれることが多くなった。私は弾くのはかまわないが人の演奏をとやかく指導するほどの腕前は持ってないと感じていて、困惑しながら子供たちの訓練に付き合うことになった。エリーゼのためにが弾けるようになりたいの。その子は言った。

私も昔もそうだった、でも自分には教える力などない。その子のおうちにはピアノがなかった、オルガンさえ。だからピアニカで練習していた。その子はピアノをバイエル程度で諦めてしまい、吹奏楽部に入ってトランペットを始めたと風のうわさで聞いた。エリーゼのためにさえ教えてあげることのできない自分が情けなかった。

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