ピアノと私
斉藤なっぱ
エッセイ
あなたは今まで何をしてきたの?
ショパンのノクターンの一番を先生の前で演奏した私が突き付けられた厳しい現実であった。ピアノは4歳のころからやっていて今まで何度も天才に遭遇してきた。そのたびに私には私のピアノがあると言い聞かせてへこたれたないで演奏してきた。厳しい先生の家のグランドピアノが鈍く光る。私は家に帰ってからあまりの悲しさでチェルニーの30番から50番までを毎日弾いた。ハノンも全曲通した。音楽の道は諦めなければならいのかと打ちひしがれた私は半ば自暴自棄になって難曲をいくつも弾いていた、でもショパンだけはつらくてどうしても弾けなかった。ある日ベートーヴェンのソナタを弾いていた時、指がへんに曲がった。脱臼したのである。それから弾けなくなって随分時間が過ぎた。ある時美術もやっていた私が画廊でブルグミュラーを一生懸命練習するおばさんを目撃していた。私の中で、何かのきらめきがそこに見えた気がした。私は今でもピアノを続けている。きっとあの時、画廊で弾いていたおばさんを見ていなければとっくに辞めていたに違いない。ピアノを弾くことは素敵なことだと気づかせてくれたあのおばさんに今ではとても感謝している。でも今でも少しショパンを弾くのはつらいのだけれど。
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