第4話 エー・アイ

僕は作家

世の中では新進気鋭の政治学者と呼ばれているが、大胆な未来予測ができるのは僕が作家だから。


よく聞かれるのは

「今まで何を予測したの? 作家さん」

もちろんキャリアの手厳しい質問だ。


最近では「AI憲法と政治家沈没」が気に入っている。

AIに日本国憲法の番人をさせる予測がテーマだ、

AIは六法から条例まで憲法のもとの法律を

網羅してその合憲性を判断する

「記憶にございません」とか

「誠に遺憾に存じます」とか

「善処いたします」とか

言っている政治家のもろもろの違法行為に即レッドカード、ほぼ全員の政治家が退場になってしまうという予測論だ。 

「それって(SFマガジン)の短編でしょ」

「(現代政治論壇)じゃなかったっけ」

「右京のペンネームだったし」


僕はSF作家でもある、ペンネームは右京、

あの特任警部の右京ではない。

小松左京の右腕の意味だけど、と言って

右翼ということでもない。


その短編のプロットはこうだ・・・

聡明でリベラルな天皇追放のために、AIによる憲法解釈を策謀した首相がいた。

第一条(象徴天皇)の国民の主権判定で退位を目論んだのだが、最後には第九十九条(憲法の尊重擁護)で首相側にあっさりとAIの違憲判決が出るという顛末だ。

早く改憲(改悪)しとけばよかったと嘆く悪人たち、馬鹿馬鹿しいエンディングだけど、この手が結構読者に受ける。

エンタメ側面としては、無能な首相とそれを担ぐ国家主義者に抵抗するJKレジスタンス連合がAIの秘かな支援の下「誰がために鐘は鳴る」的な展開になるという不滅のロマンチック・レジスタンスジャンルだ。

女子高生とAIとの不条理ではあるが純粋な愛をソフトポルノでまぶした感動の未来政治物語なのだ。


「AIとJKだけで独裁政権に勝てるものなの?」

「そりゃそうさAIにはエース、JKにはキングとジョーカーがあるからまず負けない」


こんなばかばかしいやり取りを、

ワイキキラグーンの砂上で、いちゃつきながら交わしていると、ガーリックシュリンプの香ばし匂いがラグーンの向こう岸から漂ってくる。

カマコナズ・シュリンプ・トラック〈ハワイファイブオー〉のモデルになった屋台だ。


政治学の執筆に疲れると、ものの2分でビーチ遊びができるのがコンドミニアムライフの醍醐味、

本気の空腹時にはワイキキをほっつき歩けば犬でも美食にあたる。

メインワイキキは歩いても片道20分のぐるり散歩でカバーできる。

悪名高いアメリカンフードもここハワイではかなり様相が異なってくる。


朝には多種多彩なパンケーキプレート、

(日本人グループのラッシュアワーは避ける)

ランチは屋台でシュリンプからビーフまで日差しの下で汗を流して賞味する、

(ランチボックスにもすぐに慣れる)

夜はもう料理の万国旗、

地元のパシフィック・リム・クイジーネをはじめ、イタリアン、フレンチ、ベトナム、タイ、チャイナ、最近はミャンマーまでも。

それでもステーキはやはりアメリカだ、コリアンもいいけれど。


気を付けなければいけないのは国際色に眼を眩ませていると、

「いかがなお味でしょうか? ご満足ですか?」

と日本語で訊かれたりする

「六本木店にもお越しください」

せっかくの魅惑の宵が台無しじゃん。


コンドミニアムのキッチンで自炊する手も無論ある。

コンドミニアムブームの影響であちこちに食材、総菜が手に入るお店が増えた。

以前はファミリーサイズのみ、例えば10㎏のビーフブロックのような単位だったのが、いまや、日本の消滅村落向け並みの小分けになって販売されている。

200グラムのステーキ牛をメインにして、サラダ、パスタ、ポケを量り買いすると立派なディナーになる。

コンドミニアム内のベーカリーで、スコーン、マフィン、クロワッサンをつければボリューム充分・・・、

だけど、街にこれほど美味しい食事があることを知ってしまったら、

塩・胡椒のステーキとトマトソースペンネにパサパササラダは苦痛でしかない。

僕は料理も得意だが ここハワイではクッキングハンドは封印している。

特大の冷蔵庫には、だからロングボードの瓶がずらり、パパイヤとマンゴー、アイスクリームのリッタープラ缶、おやつのドーナツだけ。

ミネラル水はコンド内で無料給水できる、ドーナツは蟻さんが狙ってくるので念のため。

ハワイの蟻は佐賀県と違って小さいので注意しないとキッチンに侵入してくる。

僕自身が入れるくらいのオーブンや使用方法が難しい電子レンジ、IHコンロ、整列したままのナイフたち、

みんな寂しそうにしている。


「では、なんでこんな広いキッチン付きのペントハウスにいるの?」

キャリアのブルーアイが怪しく光る

「よかったら私を料理してよ、それともお贔屓の料理AIにでも助けてもらう?」


いいや、キャリアを料理するのにAIの助けはいらない。

AI(愛)は僕のなかに満ち足りているのだから。





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