第2話 闇に染まった音子。

 父が会社から急いで家に帰宅し、音子と3人の子供を連れて病院へ急いだ。

 母は看護師を続けているがお腹も出てきている事もあり、現在は事務仕事が殆どである。


 病院に辿り着いた時、手術室のランプは灯っており緊張感が伝わってくる。

 神様お願い、おにいちゃんを助けて。

 音子はただそれだけを祈っていた。


 到着してから数十分、手術中のランプが消え中から痛々しい真志が運ばれてくる。


 音子は敢えて触れていないが、この場に光恵とその子供の姿もあった。

 買い物袋を持ったままという事は買い物中だったのだろう。


 音子が到着した時、光恵は泣きながら謝っていた。土下座しながら……

 先程母からの電話で聞き取り辛かった―――を庇っての部分は光恵か光恵の子供を庇ってだったのだろう。


 音子は光恵が何を言っても焦点が定まっておらず、その言葉が耳に入っていない。


 運ばれてきた真志を見るなり両の目から涙が溢れてきていた。

 そして移動する最中の真志に詰め寄って言葉を投げかける。

 しかし何の反応もなくただ目を閉じているだけ。


 母に諭され無理やり真志から引き離される。

 病室に移動され、そこには父と孫・子供達を連れて行く。

 医師は詳しい話を母と音子にするため別室へと案内される。


 そこで聞かされたのは、医者は全力を尽くした、ただ快復するかは判断出来ないとの事。

 刺されたのは心臓や肺付近を中心に何か所もであった。

 呼吸……浄化とポンプの役割である心臓と肺が傷つけられている。

 正直運ばれてきた時、呼吸出来ているのが不思議な状態だったとさえ言っていた。



 その後医者が何を言っていたのかわからない。

 一刻も早く真志の元に行きたかった。


 その前に母から真志が刺された状況を聞かされる。

 光恵から聞かされたその時の様子を。


 正直聞きたくはなかったが、音子は聞かなければならなかった。


 買い物をしている時にそれは突然起こった。

 刃物を振りかざした男が周囲の人達を切りながら暴れているというものだ。

 数人の買い物客を切りつけ時として刺し、ついには光恵とその子供の方に男は目標を定め向かってきていた。


 不運な偶然。

 

 別で買い物に来ていた真志が丁度その場面に遭遇してしまう。

 真志は動いていた。光恵が気付いた時には、刃物を振りかざした肉薄した男の姿と、光恵と子供を庇う真志の後ろ姿だったという。


   

 ふと我に返った光恵が見たモノは血を流し、倒れて意識のない真志と警備員に押さえつけられている犯人の男。

 そして他の犠牲者達だった。


 この件での現在軽傷は10人、重体と重体は各3人。

 犯人は麻薬をやっていたとの事が報道されており、それも伝えた。。

 

 音子の心の中ではもう何もかも終わったという諦めの想いと、何をしてでも犯人を……という想いが入り混じって……壊れた。


 真志が何故身を挺して庇ったのか。それは光恵の子供もまた、音子が認めて産ませた真志の子供だから。



 音子を病室に連れて行くと、真志の手を握りひとしきり泣いて謝る光恵の姿があった。

 

 2歳手前の子供達と3歳になる年の離れた弟は眠りについている。


 音子は辛うじて声を出し、二人きりにして欲しいと言う。

 自殺とかしないから安心して?と。


 30分したら戻る、と言い残し家族と光恵達は病室を出て行った。

 様々な機械が真志の口や腕や胸に取り付けられている。

 痛々しい姿を見て音子は涙を流す。

 

 おにいちゃん、と呟き真志の手を取りその掌を音子のお腹に当てる。

 ほら、私たちの二度目の愛の結晶だよ、名前まだ考えてないよねと。


 ほら、おにいちゃん、前なら勝手にこうしたらお仕置きしてくれたよね、と。

 音子は右手を真志の下半身へと伸ばし弄る。


 すると、通常ありえないと思うが、反応する。

 その様子を手に感じた音子は……


 パジャマと下着を下ろし……


 あの時と一緒だねと言って口に含んだ。



 30分後、音子は下半身に真志の生きている証を吸引し恍惚の笑みを浮かべていた。



 数日後、真志は家族たちに見守られながら逝った。

 冥府の王の元へ連れ去られて逝った。



 息を引き取る前、微かに意識の戻った真志はいくつか言葉を遺した。

 光恵を責めないでやってくれ。

 そして……犯人は赦すなと。

 両親に、これまでありがとうと。


 音子には、生まれてくる子は、男なら真人まこと、女なら子音しおんが良いなと遺して。

 音子が握る手から真志の手は滑り落ちた。

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