第4話 寝床


彼の一撃が効いたのか、悪霊の動きがピタリと止まる。灯白は拳を引き抜くとよろよろと後ろへ後ずり、壁へもたれかかった。

「やったか……」

悪霊の体はたちまち白く変色し、石像のようになったかと思うとさらさらと崩れ出した。

「……おい、終わったぞ。降りてこられるか」

「あ、い、今行く…」

屋根の低い位置まで行き地面へ飛び降りると、奈尾は悪霊の亡骸を横目に見ながら灯白へと駆け寄り、体を支えた。

「大丈夫か!?お前傷口が…」

「それくらい何ともねえ。…あいつは俺を襲ってきたやつだ。血の臭いを追ってついて来たんだろ…」

「……それでこんな怪我してたのか」

止血をしようと力を入れて押すと灯白はうっと小さく呻き、奈尾の手を抑えふるふると首を振った。

「色々あってな。巻き込んで悪かった…」

「……そんな事気にするなよ。そりゃ死にそうにもなったけど、目の前に居る患者の治療をするのが俺の仕事なんだ。ほら、わかったなら仕事させろよ」

そう言うと細い体で灯白の腕を肩に掛け体を支え、ゆっくりと歩き出した。

「………おっも…」

「……悪かったな、筋肉だよ。お前こそ小枝みてえな体しやがって」

「な…!?小枝は言い過ぎだろ!!!」

奈尾がぷくりと頬を膨らませ、睨み付ける。

「どうだか。さっきだって俺が来なきゃ死にそうだったじゃねえか」

「うぐ………」

言い返せずに黙り込むと灯白が溜め息をつき、楽しそうに言った。

「仕方ねえから治療の礼も兼ねてしばらく護衛でもしてやるよ」

「………本音は?」

「寝床確保」

「だろうと思った。ほら、早く服脱いで」

家の中へ入り灯白を座らせると替えの包帯や薬を探し回る。

「へぇ…拒否しねえの?」

「別に。ここに一人くらい増えたって何も問題ないし、護衛してもらえるならありがたいね」

「お前鼠の妖だろ。喰っちまうかも知れねえぜ?」

灯白がニヤニヤと不適な笑みを浮かべるが、奈尾はやれやれと言うように深く息を吐き出し怪我の治療に専念する。

「はいはい、どうせそんな気無いくせに」

「…よく言い切れるな?」

「まぁね」

あまり反応がなく詰まらなかったのか、下唇を突き出し眉間にシワを寄せぶすくれていると奈尾が続けた。

「ただの勘だけど。結構人を見る目には自信あるんだ。お前は根は良い奴だよ」

「………ケッ、気持ち悪い」

相変わらず眉間にシワを寄せている灯白だったが、悪態をつく口元は少し緩んでいた。




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薬屋と用心棒 華野 夏壱 @kano08nastuichi

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