第3話 強襲
翌朝、目を覚ますと部屋に居るはずの灯白の姿が無くなっていた。
「…え?あの怪我でもう出ていったのか?」
呆気にとられながらも朝の身支度を済ませ仕事に取りかかろうとすると、森の奥深くに違和感を感じる。
ーなにか良くない事でも起きたのか?
じっと見つめているとメキメキの木々をなぎ倒し、おぞましい姿をした何かがこちらに向かって突進してくる。真っ黒な姿に赤黒く鈍い輝きを放つ瞳、避けた口元には鋭くギザギザとした歯がびっしりと生えていた。
「な…っ」
突然の事に足が動かず立ちすくんでいると急に体がぐんと引かれ中に浮く。
「ちょ…はなっ」
「暴れんな、死ぬぞ!!!」
何者かに捕まったと思いジタジタともがいていると、耳元で聞き覚えのある声が怒鳴り付けた。
「お前はここにいろ」
あまりの恐怖に声も出せずにいると屋根の上へと下ろされたが、足が震えその場にへたり込んだ。足元では先程のおぞましい姿をした何かが唸り声を上げながらこちらを見上げている。
「あ…れは……」
どうにか声を絞り出す。
「悪霊だ…だいぶ魂が喰われちまって元の姿もわからねえが、奴はこの森の精霊だった」
「は、初めて見た…」
「放っときゃそのうち魂が消滅して消えるが、その分苦しみが長く暴れまわる。あいつはその前に俺が片付けてくる」
灯白の手には札が一枚握られていた。
「それ…」
奈尾が震える声で何か言い掛けたが灯白には聞こえなかったのか高く飛び上がるとぐっと拳を握りしめた。地面では姿を変えた精霊が口を開け灯白を飲み込もうと待ち構えている。
「……上等」
灯白はニヤリと口元を歪ませると重力に逆らうこと無く落下し、札を握りしめた手を自ら口の中へと突き刺した。
「灯白!!!」
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