第二章(下)
アリシアは空の街の先端まで辿り着き、その先に接続される十二号機背部の多目的コンテナの上を抜け、頭部にある操作室への
「このあたしを拒絶するわけ、
席についても機体からの反応がない。
「黒龍師団所有の他の機械神はあたしのいうとおりに動くのよ。あんたは所属じゃないからって嫌がるのか」
アリシアは機械神に認められ正式に操士と成った身。正規の機体であれば全ての機が彼女に従い己の操作権を渡すのだが。
「地上に降りるのが怖いのかしら、ずっと安全な空の上にいたい?」
挑発するように言うが計器は相変わらず無反応。
「それともあたしは十三号機を動かしたことはないから、それで疑っているのかしらあたしの実力を」
確かにアリシアは十三号機には乗ったことはない。最初から予備機として作られた機体であるので乗りたいとも思ったことはないが、最強といわれる十二号機と十一号機を超える力を内包するのは確か。
「――なるほど、自分の身を守るためにどうせなら強い方の操士に乗ってもらいたいと」
十二号機はこの空の街に乗り込んできた二人をずっと観察していたのだろう。機械神級の
そしてよりによって自分に乗り込んできたのが身体能力が低い方だと、不満なのか。
「いや、不満というよりも不安、なのね」
他の機械神に正操士として認められた者が座しても十二号機が動かない理由をアリシアは察した。この操士に身を委ねて大丈夫かと不安を表していた。
「あんたの願いも分からないでもないわ。でもね、あたしがあんたの新しいご主人様なのよ」
アリシアは何事か呟く。すると手の周囲に稲光のようなものがまとわり付き始める。彼女はそれを操作卓に向かって放った。
計器類に直撃したそれが防塵用の硝子を砕く。破片がアリシアの方にも飛び頬を切り裂くが、彼女は微動だにしない。
「今のは電撃呪文。あんたを壊しちゃ悪いと思って加減してあげたのよ。次は雷撃をお見舞いするわよ」
頬から流れ落ちる血を気にすることもなく言う。
「あたしもアイツと同じように機械神を破壊した女になってあげようか?」
アリシアがそういった途端、操作卓の各所に光が灯る。座席の下から感じる炉の振動が大きくなる。十二号機がアリシアを操士として認めた。
「そうやって最初から素直に動いていれば、無駄に壊されることもなかったのに」
起動状態となった十二号機に向かって呆れたようにアリシアが言う。
「でも素直じゃないのはあたしと同じね、アンタのこと気に入ったわ」
これでようやく十二号機は思い通りに動くようになった。硝子の破片が残る卓を操作すると、側面にある映像盤の幾つかに外部監視用映像機の映像が映るようにする。それを何十と見ていると十二号機の背後と空の街先端にある
「やはり途中で力尽きたか」
破れた上着の袖口から真っ赤に染まった人の腕が覗いている。両腕が元に戻っている。両腕を巨大な触手にしての大立ち回りももう無理だろう。
「どうやってアイツを回収して
アリシアは十二号機と空の街の接続方法を精査し始めた。
星舟への動力供給はリュウガが切ったのは分かった。位相のズレも無くなったので、速度計も冗談みたいな高速から徐々に落ち着いた速さになっている。今は輸送機の巡航速度と同程度。
解析機関を始めとした他の動力は、十二号機を空の街の一部としている固定腕と共に纏められているらしい。
「背中の接続は
空の街本体との固定方法を調べたアリシアがそう言う。
元々が自動的に接続を解除するための動力も設けられていないに違いない。十二号機は空の街を動かすための動力。分離して独立行動する必要もないので、無駄になる装備は施されていない。
「ここは手荒に行くか」
アリシアは十二号機の片腕を操作すると、空の街の本体部分に手が届く場所を掴んだ。そして押し出すように操作すると、金属が引き裂かれる嫌な音が響く。
「まさか
空の街との固定腕の一つを引きちぎったアリシアが感慨深げに独り語ちる。手を当てる位置を変え次々と千切っていく。人間が背囊を背負う紐を自力で引きちぎるよりは容易いだろう。直ぐ近くにはリュウガが倒れたままなのだが、彼女の体ならば鉄塊が降ってきても潰れないだろうと作業を続ける。
程無くして全ての固定腕は破壊された。自由になった十二号機が分離する。そして直ぐに反転すると甲板の一つで倒れたままのリュウガを回収――と思った時、
「!」
自動人形の一体がリュウガのことを抱き抱え、上層の甲板を跳んで伝いながら最上甲板へと登り出た。
全ての自動人形は常駐する機械神が動き出したら自分たちに与えられた役目を果たすために内部へと戻るはずだが、外に残る個体があるとすればそれは創造主に付き従っていたシュエツと呼ばれる自動人形に違いない。
「あたしの友人を離しなさい。でないとあんたを破壊するわよ」
とりあえず外部
するとシュエツの機械眼が明滅して発行信号で返事をした。
――創造主と戦え――。
「戦え? あの男と⋯⋯?」
リュウガを抱き抱えたシュエツが立つ最上甲板の向こうに取り付いていた仮設七号機が動いているのに気付く。
『アリシアよ、私が生み出した魔女の一人として
操作室内の拡声器から創造主の声が流れると共に、仮設七号機の頭部がこちらへ向いた。仮設機とはいえ機械神は機械神。仮設七号機は魔女の創造主を操士として受け入れたというのか。
『魔女の投下が終わってしまった以降は、退屈しのぎに君が乗っている鉄巨人を調べていたんだよ。しかしその潜在能力を実際に限界まで検証しては、さすがに壊れてしまうと思ってな、機体をいじるのは我慢していた』
機械神という動力を失わせ空の街を落下させてまでの研究は、さすがにするつもりはなかったらしい。
『しかし、君たちがおあつらえ向きの実験道具を持ってきてくれた。これで思う存分試用できる』
「その検証実験の補助をあたしにやれってことなのかしら?」
『物分かりが良くて助かる。断れば君の友人がどうなるか分かるな?』
リュウガはシュエツの個体名を持つ自動人形に抱き抱えられている。起きる気配は全くない。シュエツは創造主との戦闘中はリュウガのことを守ってくれるだろうが、逆に言えば何時でも好きな時にリュウガの命を奪える状況にある。
「助手料は高いわよ」
アリシアはそう言い終わった瞬間に腰部前面に備えられた18インチ単装砲を斉射した。シュエツとリュウガの直上を越えて放たれた砲弾は狙い違わず仮設七号機へと飛んだが、装甲表面に届く寸前に見えない力場に阻まれ爆砕する。
『それでこそ我が魔女。理想通りに育ってくれて嬉しいよ』
仮設七号機が空の街の甲板から離れ浮揚し、片方が残っていた主推進機を切り離した。
「
『整頓した方が身軽に動ける』
両肩の無くなった胸部両脇が左右に開くと格納されていた副腕が展開する。
「身軽になったのならもう少し高空でやりましょうよ。何かが飛び火してうちの友人に当たるなんて後味悪いのは嫌だわ」
『良かろう』
空の街の本体は動力炉を失ってからは予備の蓄電池を使っていたのだろうかしばらく浮いていたが、それも尽きてきたか徐々に下降している。
『君の友人の生死は君が私の助手を務める間はシュエツが守る。別に殺傷が目的ではないからな、大事な被験体を失うのは私も悦ばしくない』
十二号機と仮設七号機がある程度の高さへと移動するとそこで制止する。
『そしてそれ以上に悦ばしくないのが、私の隙を突いて友人を連れてこの場からの脱出だけを考えることだ』
降下中の空の街の開口部から
『これで準備は整った。さて、この機体の真名はなんというのか――元になった機はティアマットという名か。天翔る最も速き者には相応しい名だな。推進機を落としたのは無礼な行為だったか?』
「そんなことは地獄に堕ちてから悩みなさい!」
アリシアが咆哮と共に操作卓を操り機械神の近接兵装を起動させる。
装甲の一部が開いて
仮設七号機は機体各所の
「⋯⋯仮設機とはいえ、やはり機械神には擬似火電粒子固体は効かないか」
『雷の魔女よ、定石通りの攻撃を見せてくれて嬉しいよ、この機の能力もある程度試せた。では、私のやりたかった実験へと入ろうか』
創造主がそういうと同時に、仮設七号機の右脛の装甲に無数の亀裂が入り、出来た溝部分から発光を始めた。それと同時に腰部両側面と左脚脹脛の推進機が水素の火炎を噴き出し猛烈な勢いで仮設七号機を前進させる。
仮設七号機は機体を傾けながら、右脚を振り上げ、右脹脛の推進機も吹かして加速させた蹴りを十二号機に見舞う。生身の人間が機内にいれば確実に圧死している速度。
『近接打撃呪法――
何かの魔方陣のように幾何学的に開いた亀裂からの発光が強まると同時に、蹴撃が十二号機を襲う。
「⋯⋯」
アリシアは十二号機の両腕を交差させると、自分が手元で操作できるありったけの重力制御を動員してそれを受け止めた。
互いの鋼材がひしゃげる音が重なり、凄まじい激突音が天空に轟く。
『良くぞ受け止めたものだ。下腕くらい両方とも蹴り飛ばせるかと計算したが、私の予測以上に君は機械神を熟知し、動かしている。特に機械神特有の機器である重力制御の取り扱いは素晴らしい」
「あの『雲』を作った際の初期の頃、重力制御を使って千切って小さくしていたのはあたしなのよ。舐めないで欲しいわね」
アリシアが不敵に応える。しかしギリギリの処ではあった。中の自動人形も久し振りの戦闘に大忙しだろう。
『それは失礼』
仮設七号機は叩き付けたままだった右脚を外す。それと同時に亀裂が塞がり傷一つ無い装甲が甦る。そのまま一旦引くが、時機を見計らったアリシアは十二号機が交差させた両腕を解くと同時に左腕を振りかぶり、相手への報復と叩き付けさせる。間接の可動補佐になっている電磁誘導が宙で火花を散らし、重量を軽減させる重力制御が重い機体を強く踏み込ませる。そしてアリシアも腰と脹脛の推進機を使って更に加速させての一撃を放った。
創造主はそれを真っ向から受け止める様に再び術式を発動させる。
『中距離防護呪法――
仮設七号機の右の副腕の円柱状の装甲が花弁の様に割れて広がると、その中から六本の力場が発生し、十二号機の左拳を包み込むように受け止めた。
「ずいぶんと悩ましい技を出してくれるじゃない」
アリシアが呆れるように言う。
いくら相手も仮設機という同じ構造体であるとはいえ、正規の機械神以外のものが同じ機械神の一撃を受け止めるのは基本的には有り得ない。フィーネ台地攻防戦では五号機の攻撃を受けた機械使途は、一撃を食らっただけで墜ちた。持ちこたえたのはリュウナのプルフラスという特殊な操士に操られた特殊な機械使途のみ。
「あたしももっと魔に精通するようになったらあんたみたいにこんな楽しそうな技が使えるようになるのかしら」
『もちろんだとも我が
アリシアは空いている方の右腕で腰の副脚内に内装されている近接用ナイフを引き抜かせると、左腕を退くと同時に突き立てるようにする。
中距離防護呪法と切っ先の接触面から凄まじい力場が漏れ出した。
『おお、周囲の空間を引きずり
創造主の咆哮と共に今度は仮設七号機の間接や装甲の隙間から水が漏れだしてくる。そしてそれは意思を持ったかのように蠢きだして、十二号機の右下腕に構えたナイフごとまとわり付き始めた。
『強制可動呪法――
歌うような口調で創造主は術式を唱える。
『これは自動人形無しでも機械神を動かせないものかと作ってみたものだ。同じ機械神を拘束するのに役に立つとは、やはり実験してみなければ解らぬものだ』
「右下腕にいる自動人形、今すぐ上腕に退避しなさい!」
相手の戯言など聞く耳持たぬとばかりに、アリシアは操作卓の
「
それを聞いたか聞かないかの時機でアリシアが発射釦を叩き付けるように押し、十二号機の右下腕が近接用ナイフを突き立てたまま射出された。それと同時に、本体も強制可動呪法の降下範囲から逃れるように後退する。
「爆砕!」
アリシアがもう一つの釦を押す。同時に蓄電池に落雷級の超過剰電流が流れ、許容範囲を一瞬で超えた電圧が下腕を内部から破裂させる。腕を拘束していた仮設七号機も少なからず被害を受けた。
「⋯⋯」
十二号機は右肘から先を失ったが、全身が呑み込まれるよりかはましだ。
「自らの右腕を犠牲にして逃れるとはさすが。良いものを見せてくれた礼にこちらもとっておきを出そう」
今まで無線機越しだった創造主の声が、不思議と良く聞こえた。
気付くと仮設七号機の頭頂にあの男が佇んでいた。
「見えるか、これが」
高空の外にいるというのにその男の声は鮮明に響く。
男が翳した右の手の平の上には、黒い塊が載っている。映像盤越しにも伝わってくる禍々しい気配。
「これは私が星舟で旅していた時代に黒き星の海で拾い上げたもの」
夜が結晶化したかのような闇の意志。
「黒孔生命体が下位互換をした際に出た破片らしいことは突き止めた。これが一部でも解析できたからこそ魔法が作れた」
影が踊るように男は告げる。
「黒ノ欠片。そう名付けた」
「⋯⋯クロノカケラ」
仮設七号機の隙間という隙間から水が漏れ出してくる。それは仮設七号機の前で滞留すると球状になり、周囲から刺のようなものが四本延びるとそれは柱のように太くなり、形を変えて巨大な腕と脚になる。
それがどす黒く染まっていく。今もこの星の空の半分は覆っている夜の闇を溶かしたかのような
「私が試したかった機械神の扱い方を見せてやろう」
創造主はそういいながらふわりと跳ぶと、闇色の水の人型の中へと呑み込まれるように沈んだ。そして残された仮設七号機の変形が始まる。
仮設七号機の全身に術式の為の亀裂が入ると、内側に折り畳まれるように変形していく。質量保存の概念を超えた内部可動の繰り返しにより、仮設七号機であった物体は機械神の右脛下部の形状へと変形を終えた。
「終局呪法――
七号機の頭部形状の意匠が残る右脛下部部品が完成する。
黒水の人型は周囲の水分も吸収しているのか機械神とほぼ同じ大きさになり、その右脛に当たる部位が弾け跳ぶと、空所に脛の形態となった仮設七号機が収まる。
「な⋯⋯なんなのよこれ」
さすがのアリシアも、完成したモノを見てそれ以上言葉が出てこない。禍々しい簡単に言いあらわせられない何か。
血を黒くなるまで煮詰めたようなどす黒さなのに、しかし限り無く透明なのはなぜだ。虚無が実体を持てばこんな形になるのか?
「黒水の巨人、そう呼んでくれたまえ」
仮設七号機が変形した右脛の装甲に無数の亀裂が入り、出来た溝部分から発光を始める。
黒水の巨人は体を傾けながら、右脚を振り上げ、術式を形作るため割り開いた亀裂からの発光が強まると同時に、蹴撃が十二号機を再び襲う。
「近接打撃呪法――
先ほどよりも鮮明な声で攻撃名が告げられて呪法が完成する。十二号機は左腕を前に出して重力制御も出力全開で応えたが、見事に吹っ飛ばされた。機体各所の構造材が折れ、自動人形が応急修理に慌ただしく動く。
(これは⋯⋯決着をつけるためにはリュウナがやった方法を再現するしかないわね)
自機に体勢を立て直させながら対応を考える。
鉄――しかも機械神そのものを触媒とした禁呪中の禁呪。まともな方法で太刀打ちできるとは到底思えない。
リュウガの妹は十三号機搭載のグレモリーと共に持ち込んだ二体の自動人形を五号機の内部に突入させて炉を暴走させ、相手を倒した。機械使徒で機械神を倒すという禁忌を犯したのだ。
この局面では起爆のための炉はこちらにあるが、相手を誘爆に巻き込むためには一瞬でも動きを止めて固定しなければならない。
(その一瞬だけ稼げれば)
「⋯⋯」
シュエツが顔を見ると抱き抱えていた彼女は瞼を開き天空で繰り広げられる戦いを見ていた。その顔はこれから自分が何をしなければいけないのか分かっている顔だった。
「⋯⋯下ろして、もらえますか」
リュウガは敵であろう自動人形にそう願った。
「――」
シュエツは膝間接を曲げて屈むと、微速降下中の空の街最上甲板の上にリュウガの体を横たえる。
「⋯⋯ありがとう」
リュウガはそういいながら左手で右腕を持つと、指先が上向くように掲げた。右腕に腕を動かす以外の電磁誘導と重力制御の力を込める。二つの力が合わさって指先に火球が生じる。それは大きさ自体はそれほどでもないが内包する熱量がとてつもない温度になっているのをシュエツは内蔵の温度
「止めるなら⋯⋯止めてください。あなたがたの、主は、これが放たれれば、負けます⋯⋯」
鋼鉄製の自動人形すら一瞬で焼失させるであろう火球を作り出してリュウガが言う。
「お前の一矢で趨向が決するのならあの男も文句はあるまい」
シュエツの応えは止めたら自分が破壊されるのを怖れての言葉ではない。あの
「⋯⋯」
リュウガは無言のまま上空の戦場へと火球を撃つと、掲げていた両腕を甲板に叩き付けるように気を失って再び昏睡した。
「!」
突如下方から放たれた何かに撃ち抜かれた黒水の巨人は、直後に貫通された部位を中心にして爆散するように蒸発した。
アリシアが射撃点を対物
「すまないわね」
アリシアはそういいながら、体内の水蒸気爆発で消失した体を再生させようとしている黒水の巨人に十二号機を取り付かせた。同時に両肩両腕の自動人形に退避命令を出す。親友が作ってくれたこの時間を無駄にはしない。左腕で掴み、右肩からは個別分離変形用の補助腕を出すと相手を抱え込み、胴体からの両肩の切り離しの操作と同時に内蔵された炉を臨界以上まで動かす。両肩両腕の自動人形が胴体内に逃げ込むのと、両肩の切り離しが完了するのは同時だった。
「爆縮!」
アリシアは両肩の炉の自壊釦を押す。炉に封印された小型黒孔が膨張と縮小を高速で繰り返し始め、その振動が運動力に変換、それが三次元世界での許容を超え原子の大きさになったとき、その余波は周囲のあらゆるものを吹き飛ばす。呪術の永久防御であろうとも機械神級の絶対防御であろうとも、全てが公平に。
空を引き裂くほどの爆発音が轟く。
「⋯⋯やったか?」
爆煙が晴れると、上半身が丸々消えてなくなっている黒水の巨人の残骸が浮いていた。薄皮一枚でかろうじて残っている腰に脚だけがぶら下がっている。
「⋯⋯!」
しかしアリシアは見た。黒水の巨人の頭部があった場所に人影が浮いているのを。そしてそいつが右手に黒ノ欠片を変わらずに持っているのを。
「素晴らしい。こんなにも素晴らしい
創造主は、四肢の多くが欠損し顔や胴も崩れ落ちているが、本人は大したことはないらしいのか、愉快な覇気が放出され続けている。
「君の友人の真価も見れた。機械神を破壊した女の称号は偽り無き本物であることを身を持って体験できるとは、なんと有意義な日だろう」
創造主は満足げに言う。
「まだまだお相手願いたかったが、双方とも随分と損失が大きい。私は撤退することにする。体験した多くを早く計算して論文に起こしたい
「逃げるんだったら後ろから狙撃するわよ」
アリシアはそういうが、ほぼハッタリに近い。十二号機も両肩から先を完全に失い戦力は大幅に落ちている。
「もちろん狙ってくれて構わん。君に引導を渡してもらえるなら素晴らしき人生の幕引きだ」
創造主はそう言い残すと転位するかのごとき高速で移動し、アリシアの視界から消えた。機械神のあらゆる感覚器からも反応は無い。
創造主が居なくなると黒水の巨人の残った部位は溶けて流れるように下へ落ち、仮設七号機が変じた右脛下部も力を失ったように落下した。
「⋯⋯」
これで驚異は完全に振り払ったと判断したアリシアは、沈み続ける空の街へと降下した。最上甲板に近付きそこで寝かされているリュウガを確認する。機械神の対人
「また、助けられたわね」
アリシアはそう独り語ちながら十二号機の副腕を展開させると、リュウガの体を優しく掴んだ。巨大な手の平の上に移動してもリュウガはまだ目を覚まさない。
アリシアは簡素な別れの言葉を告げながら、十二号機を空の街から離れさせた。
「バイバイ、あたしの故郷」
十二号機という動力炉を失った空の街は、海上へと緩やかに墜ちて行く。
自分の生まれ故郷を自分の手で葬るとはどんな気持ちなのだろうか。
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