最後に勝つのはこの私! 下 

 私も買い物はしたいし、付いていこう。今日は潤一に付いていかなきゃいけない気がする。


 朝食を食べ、そのまま2人で電車に揺られること15分弱。少し大きめの駅に着いた。駅に付いているショッピングモールは土曜日と言う事もあってか人でごった返していた。


 潤一は本が見たいというので、最上階にある書店にエスカレーターで向かった。私は雑誌でもチェックしてようかな。


「あれ? いずと潤一君じゃん」

「あっ! 千秋ちゃん・・・・・・と愁先輩!?」


 誰かに声を掛けられてたのでそっちを向くと、千秋ちゃんと愁先輩の姿があった。

 朝からずっと変な感じしてたのこれかぁ・・・・・・愁先輩もここに買い物に来てるだなんてどうなっているのよ。


「潤一君と泉さん。こんなところで会うなんて、その・・・・・・奇遇ね」

「しゅ、愁先輩も買い物ですか?」


 あれ? なんで愁先輩、顔赤くして・・・・・・


「早く手付けないと取られちゃうかもよ?」


 そんなわけないじゃない・・・・・・きっとそう! 熱とか息切らしてるとかそんな感じよ! そうじゃないと可笑しいじゃない。私、バカみたいじゃない・・・・・・


 私たちはとりあえずカフェチェーン店に入った。私は潤一の横に座り、潤一の正面に愁先輩が座っている。


 その愁先輩はというと、軽く恥ずかしそうにしながら綺麗な髪をいじっている。潤一は一生懸命に愁先輩に話題を振ってはすぐさま会話が終わってを繰り返す。


「愁先輩! ここのパウンドケーキ美味しいですね」

「えぇ、そ、そうね」

「愁先輩、部活はどうですか?」

「まぁ、ぼちぼちよ」


 こいつはこいつなりに頑張っている。それなのにさっきから愁先輩は会話を広げようとせず目線を逸らすだけだ。ちょっとムッとしてしまう。

 愁先輩のこの反応、恋かは分からないけど、好意は抱いているみたいに見える。


 正面から千秋ちゃんがいたたまれない表情を送ってくる。

 先輩とあいつが何を話していたかなんて覚えていない。適当に相槌をうっていただけ。 

 カフェラテの味なんてわかる訳がなかった。

 帰り際に私は口走ってしまった。

  

「あのさ、もう潤一1人で大丈夫そうだし、後は1人で頑張りなさい」

 

 これは逃げだ。降伏宣言になっているかもしれない。でも私にはもう・・・・・・勝ち目無いじゃない。どうしろっていうのよ・・・・・・ 

 

    ***


「泉、俺告白しようと思う。一応言っておく」


 月曜日の朝に潤一がそう宣言した。昨日の様子を見るからに、脈ありと思うのは当たり前だ。頬を赤らめている愁先輩なんて見たことが無い。


「そう。一応応援してるから。頑張ってね」


 私は潤一の顔を見ることも無く呟いた。

 その日の昼休み、校舎裏には潤一と愁先輩の姿があった。私は非常階段からその様子を見ている。隣には千秋ちゃんが一緒に見てくれている。


「いず、本当に良いの? 取られちゃうかもよ」

「——良いの。今思えば、そもそも私のものじゃいし」

「それはそうだけど・・・・・・好きなんでしょ? 潤一君の事」

「・・・・・・好き」

「じゃあ~奪っちゃえ! まぁ冗談は置いといて、今からなら間に合うかもよ?」


 千秋ちゃんは少しけだるそうに下を眺める。

 少しは思う。もし、私が告白すれば、少しは可能性があるかもしれない。でも。潤一が好きなのは愁先輩。潤一には・・・・・・幸せになってほしい。


    ***


「こんなとこに呼び出して、何か用? そろそろ休み時間も終わりだし、手短にお願いしたいのだけど」

「愁先輩・・・・・・その・・・・・・」

「何かしら?」


 少し違和感を覚えた私がいる。週末に会った時と打って変わって、いつものかっこいい愁先輩だ。頬を赤らめる様子など一切ない。


「その・・・・・・伝えたいことが」

「伝えたい事って?」

「——好きです」


 ——終わった。さよなら私の片思い。そう思っていたけれど、


「嫌よ。私好きな人がいるもの」


 潤一と私の顔が固まる。え? どういう事? 愁先輩が好きなのは潤一で・・・・・・でも潤一には好きな人がいるから嫌って・・・・・・自分から告白したいとか??


「その好きな人って・・・・・・」

「・・・・・・さんよ」

「え?」


 聞き耳を最大限に立てて、細い声を聞き取ろうとする。




「泉・・・・・・さんよ」




 衝撃。愁先輩は顔を真っ赤にして、もじもじしながら答えた。

 って私かよ!!!

 確かに先輩可愛いけど! 可愛らしくデレてるけど! 違うじゃん! そうじゃないじゃん!


「あぁ・・・・・・愁はそっちだったかぁ」


 面白そうなものを見つけたように千秋ちゃんは興味津々に見える


「ななななな」

「いず~どうする? 愁の思い人みたいだけど」


 千秋ちゃんが必要にからかってくる。膝でつついてくるのやめなさい。答えなんてわかっているだろうにさ・・・・・・


「なんでよ・・・・・・」

「人の愛の形はそれぞれじゃない」


 とぼけながら千秋ちゃんが笑っている。


「そうだけど!」


 愁先輩と潤一はと言うと


「え? 泉・・・・・・」

「そうよ」

「それはむしろ——ありだな・・・・・・分かりました。俺、応援します」



 潤一のばかぁ!!! 変態!!!


 多分これからも仲は進展しないだろうなぁ・・・・・・色々な意味で。

 最後に勝ったのは私・・・・・・なのかな・・・・・・? これ・・・・・・

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