最後に勝つのはこの私! 中
潤一と駅近くのファミレスに入る。中は学生が多く、携帯片手に色々な話をしていた。ドリンクバーに加えて私はチーズケーキも頼んだ。糖分がなきゃ頭が働かないしね! まあ、本音は食べたいだけなんだけど。
ここからはミスは許されない。変に間違うと愁先輩に・・・・・・なんてことになるかもしれない。よし、だから気を引き締めてケーキを食べよう。まずは慎重に先端にフォークを入れて・・・・・・
「なあ泉、俺まずはどうすれば良いと思う?」
「えらくふわふわしてるわね。それを今から考えるの」
私はチーズケーキを口に放り込み、噛みしめる。うーん美味しい! 何でだろう、ファミレス程度の代物なのにどうしてこんなに美味しいんだろう。こいつと一緒だからかな・・・・・・なんて。ケーキはなんでもある程度は美味しいのです。この世の摂理。
まあ、幾ら玉砕させようとしても、あからさまだとバレちゃうわよね。少しは真面目に考えてあげるか。肘を付き上を見ながら考える。天井にはいつもの様に天使が飛んでいた。
まずはこいつの良い所とか、かっこいいところを前面に出してアプローチさせようかしら。手っ取り早そうだしね。
——寝息が可愛い、私がいないとご飯も食べないほどの生活力、純粋馬鹿・・・・・・こいつダメ男だ。それでもって私はそのダメ男製造機だ・・・・・・
「——ねえ、あんた自分の良い所って何だと思う?」
「なんだよ急に。面接かよ」
「いいから、これも愁先輩にお近づきになるための一歩なの。早く言いなさい」
「なるほど・・・・・・自己分析か。深いな、流石泉」
馬鹿で良かった。頑張って自分で絞り出してね。深いなって感心までしちゃったし。本当は不快になるところだったんだけどね。ふかいだけに・・・・・・
潤一はコーラを飲みながら考えている。えらく時間かかるわね。私3分で自己アピールでもしろって言ったかしら。
「っすぅ~・・・・・・運動ができる」
「あなた帰宅部でしょ」
「容姿端麗」
「どこがよ、167センチの平凡顔なのに。THE平均値」
「・・・・・・家庭的」
「ぜんぶ私がやってるわよ。朝だって1人で起きられないでしょ」
「あっ、優しい!」
「それ褒める所がないときに使うやつよ。○○君優しい~って。もしかして卒業アルバムに書いてあること、本気にしちゃうタイプだった?」
ちょっと言いすぎたかもしれない。こいつ地球に隕石が落ちる数秒前の顔してる。ごめんね。でも、必死に絞り出してこれとかどうかと思うんですけど。——人のこと言えないか。
まあ実際にところどころ変に優しいのは認めるけど。ずっと優しいってのも私の精神衛生上良くないしね。多分こいつのことだし、誰彼構わず優しさを振りまくだろうから。そう思うと丁度いいのかもしれない。
「やめよやめ。潤一の良い所からアプローチするのは無理よ。少しずつ距離感詰めるしか無いわね」
「俺だって傷つくよ? 自覚はしてるけどさ・・・・・・」
「まずは潤一の存在を認知してもらう所から始めましょう。多分、名前どころか存在も知られてないから」
「え? 無視されてない? ねぇ、会話しようよ」
この反応を見る楽しさよりも申し訳なさが勝ってきた。
「うっ・・・・・・泉、俺はどうすれば良いんだ?」
「あぁ・・・・・・潤一はそもそも目立てないでしょ? だから愁先輩だけに知られればいいんだから目立つ必要は無いの。そうね・・・・・・まずは見かける毎に挨拶しておきなさい」
「そんなことで良いのか?」
「そう。でもエンカウントの回数は増やすように心がけなさい。まずは回数よ」
紅茶を飲みながら奮い立っている潤一を横目で見る。このまま空回りしてくれないかなあ・・・・・・紅茶は美味しくないわね、所詮はファミレスレベルね。
潤一とファミレスで会計を済ませて家に帰る。お金のやり取りはしないことが関係を保つ秘訣なのだ。私の分は私で出しました。
明日の金曜日から作戦開始、と言うわけでまずは朝の挨拶。基本愁先輩は朝練をしているみたいだけど、昨日みたいに無い日もある。私たちにそれを知る術はないから、朝練終わりに狙いを絞ることにした。
ビンゴ。朝練中の愁先輩を発見。朝練が終わるのを見計らって、まるで今来ましたよ~感を出しつつ近くに寄る。
潤一のやつ、汗したたる愁先輩をみて挙動不審になってるし・・・・・・気持ち悪いから手で触るのは嫌ね・・・・・・右肘でつついてやろう。駄目だ、反応が無い。
ここまで近寄ったんだから挨拶しなさいよ!
体がっちがっちになって近づいてるけど大丈夫かしら。いやだめね、あれ。今時ロボットでももっと滑らかに動くわよ。関節に5-〇6さした方がいいかしら。少しはましになるんじゃない?
「お、おはようございますぅぃ~・・・・・・」
「え?ああ、おはよう・・・・・・あなた、その何て言うか・・・・・・大丈夫?」
「だいじょうびゅでず!」
あ~あ、やっちゃった。まあ潤一だし最初はこんなもんでしょ。ブニョールの街並みもびっくりな顔しているわね。あれ、掃除大変そうよね。何だっけ? トマト祭り?
あっ、赤い顔から急に蒼白になったわね。あと黄色出せれば信号機務まりそうじゃない? そんな潤一と一緒に教室に向かう。本当は隣に置いておきたくはない状態なのよね。
昇降口から階段を上がり2階の廊下を歩く。廊下には進路案内だったり部活の功績だったりが展示されている。まだ私たちには関係ない話なのでしっかり読んだ記憶はない。
潤一はずっと顔面蒼白だったから、流石に慰めることにした。こういう所でも稼いでいかなくちゃね。
「ねえ、そろそろ立ち直ったら? 一応は愁先輩の印象・・・・・・っぷ・・・・・・に残ったわけだし成功だと思っていいと思うわよ」
「今笑ったろ・・・・・・いや違うんだ・・・・・・」
「何がよ」
「これは決して落ち込んでいるわけではないんだ!」
「?」
「ちょっとその・・・・・・愁先輩・・・・・・めっっっちゃ!いい匂いしたから!それに超驚いているんだ。汗かいててもいい匂いってどういう事だよ!」
「——殴るわよ。本当に」
本当にキモチワルイ。私なりの優しさ返しなさいよ。
——シャンプーとか変えてみようかしら。ちょっと髪に会ってない気がしたのよね。・・・・・・愁先輩なに使ってるんだろう。それとも素の香り?
教室に入り、少しは真面目に授業を受ける。教科書丸読みの日本史って意味なくないかしら。内申点なかったら寝てるわよこれ。
少し離れた斜め後ろのあいつは、そんなことは関係なく寝てるんだけどね。これでテストは平均点くらいは取っていくんだからたちが悪いのよ。
放課後は流石に先輩に挨拶してると遅くなっちゃうからそのまま帰宅。とりあえずは毎朝挨拶をして覚えてもらうことにしよう。いきなり距離を詰めると警戒されそうだしね。
最初は噛み噛みだったけど、だいぶまともになってきた。もう1週間たったんだしそうなってもらわないと困るんだけどね。
1週回って金曜日。いつも通りの退屈な授業を受け、お昼休み。いつも通りにお弁当箱を潤一の頭の上に載せる。ほいっと・・・・・・ちなみに1度も落としたことは無い、熟練の技。
お弁当箱を載せても起きなかったのでちょっと肩をたたいてあげる。
「何寝てるのよ」
「泉・・・・・・ん~もう昼休みか」
のんきに弁当を机の上において背伸びをしている。
「寝てる場合じゃないわよ。2年生の教室に行くの」
「え?なんでさ」
「なんでって愁先輩に会いに行くのよ」
「予定もないのにか? 流石に不自然だろ」
潤一のくせにこういう所は理解しているのね。
「安心しなさい。仲いい先輩が同じクラスのはずだから、用があるていで行くの」
「おぉ・・・・・・泉に仲いい先輩いたんだな」
「あんたと一緒にしないで」
2年生の教室は1階上の3階にある。階段を昇りながら潤一を見るとまた顔が青白くなっていた。
「えっなに? あんたこの距離から匂い感じてるの? 引くわよ」
「どういうこと?」
流石に違ったか・・・・・・良かった。蒼白だったからもしかしてと思ったけど。10年の恋も一瞬で冷める所だったわ。
3階に着くと丁度、愁先輩が廊下にいた。チャンス!
「あっ愁先輩、ちょっと呼んでほしい先輩がいるんですけどいいですか?」
「あなたは桜川
なんで私の名前を知っているんだろう? 確かにちょっと話したことはあるけれど、フルネームで覚えられるほどでは無いと思うのよね。
「
「あぁ、やっぱり千秋なのね。分かったわ、少し待ってて」
ひとまずこれで愁先輩に潤一の顔は覚えられただろう。そろそろ次の段階に進んでもいいかな。
待つこともなく千秋ちゃんが教室から出てきた。
「いず~久しぶりじゃん。どうしたの? 」
「千秋ちゃんも久しぶり! ちょっとねぇ・・・・・・どう? 一緒にお昼ごはんでも食べながら」
そんなこんなで3人は1階にある開けたホールでお昼を食べることにした。
ちなみに潤一はずっとロボット状態だった。
「ふーん、この潤一君は愁が好きなんだ。それでねぇ~」
「そう言えば千秋ちゃんて愁先輩と仲いいの?」
「そうだよ~」
「なんか愁先輩が私の名前知ってたのよね」
「あぁ、愁にちょくちょくいずの話題出すからなぁ」
納得。私が認知されていたのはうれしい誤算だったわね。でもこれで次の段階でやることが決まったわ。
「潤一、次は愁先輩とお昼ご飯を食べる仲になるわよ!」
「え? それは急すぎない?」
「あんた愁先輩と付き合いたいんでしょ? つべこべ言わないの」
そんなこんなで急展開。千秋ちゃんに来週から愁先輩を呼んでもらうことにした。無理だったらごめんねとは言われたけど、千秋ちゃんと愁先輩は仲良さそうだから大丈夫でしょ。
すると突然千秋ちゃんが耳打ちしてきた。
「いずはずいぶん余裕だね。早く手付けないと取られちゃうかもよ?」
「え? ・・・・・・違っ」
「お弁当の中身一緒じゃん。嫌いな人にお弁当作るわけないでしょ~」
「もしかしたら、もしかするかもね」
そうして千秋ちゃんは不敵な笑みを浮かべていた。
確かに怖いくらい順調に急激に距離を詰めているけど、まさかね・・・・・・?だってまず潤一がまともに喋れてないんだもんね。大丈夫大丈夫。私はそう自分に言い聞かせていた。そう考える時点で少しは恐怖している事なんて分かってる。
明日から休みなんだから少しは楽しいことを考えよう。
次の日、目を覚ますとなにか変な感じがした。言葉で言い表せないような不思議な感覚。強いて言うなら常に緊張しているような、もやもやするような。
別に体調が悪いわけではないから、私はいつもの様に少し早めに家を出る。いつもと違うのは、この感覚と制服を着ていないことぐらい。パパとママは今日も早く仕事に出ちゃったし、あいつの家に上がり込んで朝ごはんを食べることにした。
チャイムを押すとすぐにエプロンをしたおばさんが出てきた。軽い挨拶をするとおばさんはすぐにキッチンの方へ向かった。
「あっ、私手伝いますよ」
「大丈夫よ、ありがとう。そうね・・・・・・じゃあ泉ちゃんはあの子起こしてくれる? もうすぐ朝ごはんできるから」
「わかりました」
階段を上がりノックをしてドアを開ける。
「おう、泉おはよう」
「珍しい・・・・・・」
「失礼な。俺だって起きる時は起きるんだよ」
こいつが起きてる! 珍しい! どころの騒ぎではない。着替えまで済んでいる・・・・・・
「どうしたのよ」
「ちょっと買い物に行こうと思って」
朝から何でこうも日常らしさが無いのだろうか。あまり出かけないこいつが朝起きてまで買い物に出かけるだなんて。嫌な予感がする。
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