イミ
その■■■■■が倒れていたのは、腐臭が立ち込めたごみ捨て場だった。
初め見つけた時、おれは自立式衣服用マネキンの成れの果てだと思った。
そんなだから、何か金に変えられそうなパーツでも無いかと思い近寄って……心から後悔した。
そいつが生身の人間だって気が付いたおれは、面倒事は御免だ、そう思って立ち去ろうと踵を返した。が、報告条令の事を思い出して思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。
おれが■■■■■……だが、道に倒れている国民を放置したとなれば、国力を削いだ犯罪者になっちまう。お国の為にあくせく奉仕する俺達は、そんな事になったら文字通り生きていけないからな。
仕方無しに俺は、その■■■■■を拾い上げて、ねぐらに帰る事にした。直ぐに国内警備の連中に引き渡しても良かったが、生憎今は仕事帰りの身だ。あまり人目に付きたくない。頃合いを見て国内警備の連中に引き渡してやればいい。■■■■■。
人口太陽が今日の勤めを終えて引っ込んだ頃、■■■■■は目を覚ました。
灰色がかった瞳が此方を見つめているのに気付いて、目が覚めたのか?って聞いてやっても一言も喋らねぇ。ただ、倒れてた時からずっと離さなかった、ずた袋を握ったままぼーっとしてやがる。
この十年でこういう連中は急激に増えた。妙に色素が薄くて、手首に彫られたコードで管理されてるぼーっとした奴ら。
百年ほど前に環境のバランスが崩れて、■■■■■が起こった。おれには■■■■■って何だかはよく分かってないが、そういう危機にも対応出来るように、なんてAIが言ったっけな……そうだ「イミタティオ」だとか、そういう説明をずっと昔に教育機関で受けた事がある。
なんでも、おれみたいな■■■■■は、これからは時代遅れらしい。
奴らは普段おれ達とは別の居住区に暮らしていて、決まった時間に起きて、決まった時間内で奉仕して、決まった時間に活動を終える。国内警備の奉仕も、大体こいつらがやってる
そういう整ってるのが幸せなんだって生態管理プログラムのAIが■■■■■。
大体■■■■■を時代遅れってほざく機械に……生きる為とはいえ、なんで縋りつけるのか……■■■■■。
そういやこいつ、イミタティオの癖になんでごみ捨て場なんかで倒れてやがったんだ? 彼奴らは決まったサイクルは絶対に乱したりしないし、あのごみ捨て場にはおれみたいな……「変わり者」しか、奉仕以外じゃ誰も寄り付かないってのに。
「ここ、どこですか」
ぼーっとしていた■■■■■が急に声を上げたもんで、おれは思わず声を上げて驚いちまった。
気まずくなって舌打ちしてから、何処って、おれのねぐらだよって答えてやったら首を傾げてから緩慢な動きで周囲を見渡している。
「ここ、ほんとうにへやですか」
一々ムカつく反応しやがるなぁこいつ……確かに汚れてるし、一見ゴミみたいに見えるもんが転がってるけど。
そうだよ悪いか、って言ってやったら首を傾げやがる。おれがなんで怒ってるのか全然理解してねぇって顔だ。クソッタレ、だから嫌だったんだ。イミタティオなんかに関わるんじゃなかった。明日絶対に国内警備の前に突き出してやる。
「あなたのいうわるい、のいみがわかりません。ですが、ここ、わたしのしっているへやとちがいます。にぎやか、です」
■■■■■は自分の近くに置かれていた、薄型のタブレット端末を片手に取った。
そいつは最近おれがごみ捨て場から回収して修理したやつだ。
「きれい、ですね」
タブレットのボタンを押して、映った画面を見下ろしたそいつはそう言って笑った。灰色の髪が、ふわりと揺れる。
イミタティオがそんな顔をする所なんて初めて見たもんだから、おれは毒気を抜かれちまって、おうと答えることしか出来なかった。
【サンプルここまで】
※作品は検閲されている状態です。巻末に未検閲の完全版を収録しております
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