第12話 酔っぱらった美鈴さん
屋上で話をした日の夜。
姫川が必死にノートパソコンと睨めっこしていた。
「何してるんだ?」
「男のハートを鷲掴みにする方法を調べてるんだぁ」
「でも、それって相手によるだろ?」
「じゃあ、教えて? 何して欲しい?」
「何もせんで良いっ。じっとしてろっ」
「むぅぅ」
頬を膨らませる姫川。ハムスターみたいで少し可愛い。
そんな中、玄関ベルが鳴る。
俺が玄関扉を開けて対応する。
「でへへ、どもーー」
酔っぱらった美鈴さんだった。
ここに住み始めて二年間、こういう事がたまにある。女嫌いだと説明した筈なのだが。弟のように思われているのだろう。
「ちょっと美鈴さん。またそんなに飲んで」
「お姉さん、あっがりまぁーーす。ひっく」
奥から姫川も現れた。
「おいっ、手伝ってくれっ」
「むぅぅぅ」
何故ここで頬を膨らませるのか。仕方なく、一人で美鈴さんを運ぶ。
「ねえ、総ちゃん。こういう事、良くあるの?」
「ああ、たまにな」
「ちょっと、総ちゃんっ。酔っぱらった美鈴さんと二人でまさか……」
「何もしてねえっ。女嫌いだって言っただろっ」
「でも、お胸には興味あるんだよね。私のも見てたし」
「は、はあ!? 言いがかりはよせっ」
「あーー、よく見ると美鈴さんも大きいなーーー」
わざと強調するように言ってくる姫川。
確かに美鈴さんも大きい方ではある。姫川に匹敵する程の。興味が無いと言えば嘘になる。だが、女嫌いなのも事実だ。
「ねーーー、総くぅーーん。いちゅもの」
「いや、やめましょうよっ」
「はーーーやーーーくーーーー」
赤ちゃん言葉になる美鈴さん。
「総くんって呼ばれてるんだ」
「はっ」
顔を見ると、相当お冠のようだ。目を細めて遠くを見ている。
「私が最初に美鈴さんに会った時は、新田くんって言ってたのに」
「酔っぱらった時だけな。普段は新田くんって呼ばれてんだよ」
「いつものって何?」
「……膝枕だよ」
「なっ」
衝撃的な俺の言葉に目を見開いて驚いている。そして、鬼の表情になり、
「実家に帰らせていただきます」
「ま、待てっ。勘違いするなっ。誰の膝でも良いんだっ。ママを思い出して安心するらしい」
「ママ?」
「美鈴さんの母親だ。お母さん子らしい」
「じゃあ、私でも良いの?」
「ああ、俺の代わりにやってくれ。俺がやった時には、膝が硬いだの、痛いだの言われ、叩かれまくったからな」
「ぷっ、ふふふふ。喧嘩番長の総ちゃんが叩かれるの?」
何とか笑ってくれた。この時、怒らせると俺より怖いという事が良く分かった。
俺の代わりに美鈴さんの近くに移動し、正座する姫川。
そして、その膝に美鈴さんが寝る。
「わあ、柔らかーーーい」
姫川の膝を撫でくり回している。喜んでいるのかと思えば、
「おかーーあーーーさーーーん、グスン」
ホームシックになり、泣き始める美鈴さん。忙しい人だ。
俺の膝よりも柔らかい為、母親の膝を思い出すのだろう。
「じゃあ、後は頼むぞ。俺、風呂入ってくるから」
「はーい」
美鈴さんを姫川に任せ、風呂に入る。
湯に浸かると疲れが取れる。姫川が現れてから疲れる毎日だ。だが、疲れるだけ、というわけでもない。少しずつこの生活に慣れ始めている俺が居た。
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