第13話 ある要求
風呂で疲れを癒していると、いやに洗面所が騒がしい。一体何をしているのだろうか。
そんな事を考えていると、急に風呂の扉が開かれる。
「な、何だっ!?」
まだ入浴中だというのに、ひょっこり二人が顔を覗かせた。
「あーーーー、総くんが入ってるーーー」
「出てって下さいよっ」
「総ちゃん、お背中流しましょ~」
「要らねえよっ。出てけっ」
女嫌いな俺の元へ、女二人が風呂覗きにやってきた。最悪な状況だ。
「うへへーー、総くんのはどれ位かなぁーーー?」
「美鈴さんっ、下品ですよっ」
「あっ、美鈴さん、ズルいっ。最初に見るのは私ですよっ」
「どっちもダメだっ。早く出ろっ」
俺が扉を閉めかけたその時、
「お姉ちゃんも続きまぁーーーすっ」
美鈴さんが上着を脱ぎ始めた。
「ストーーーップっ!」
本当にマズい。全裸で入ってこられたら終わりだ。
「頼む、姫川っ。何でも一つだけ言う事聞いてやるから美鈴さんを止めろっ」
「えっ!?」
その言葉に目を輝かせた姫川が、
「さあさ、美鈴ちゃん。お母さんと向こう行きましょーーね」
「はーーーーい、ママーーーー」
何とか二人が浴室から消えてくれた。姫川の機転に感謝する。
だが、どんな要求をされるかを考えると不安だった。
風呂から上がり、着替え終えて部屋に戻ると、美鈴さんが俺のベッドで寝ていた。親指をくわえて。
「まるで赤ちゃんだな」
「総ちゃん、さっきの話、ホント?」
嬉しそうな顔をしている。
「ああ、ホントだ。何でも言え」
そう言われ、凄く考え込んでいる姫川。
もし、結婚してくれだのHしてくれだの言われれば終わりだ。
恐怖しながら待っていると、
「名前で呼んで欲しい」
「えっ」
全然想定していない言葉が返ってきた。想像していた事よりも随分軽い内容だ。
「そんな事で良いのか? 結婚してくれ、とかでも良いんだぞ?」
「良いの。こんな形で渋々承諾して欲しくないから」
「そっか」
意外にも姫川は律儀だった。
確かに、今結婚してやると言われても本心では無い事くらい察しが付くだろうから。
「よしっ。名前で呼んでやる」
「わくわく、わくわく」
「葵っ」
「はぅん……カ・イ・カ・ン」
「変な言い方するんじゃねえっ」
「へへ」
こうして俺は姫川の事を葵と呼ぶようになった。
「これでようやくカップルっぽくなったね。一歩前進」
「まあ今はカップルごっこだからな。一週間終わった後はどうなるか分かんねえぞ?」
「うん。私、必ず振り向かせて見せるっ。私無しじゃ生きられない体にしてあげるっ」
「気持ち悪い言い方すんじゃねえっ」
「てへっ」
お互い、顔を見合わせて笑い合っていた。そんな中、
「ああん。ダメよ総くん。そんな所吸っちゃ」
「――ッ!」
美鈴さんが変な夢を見ているようだ。それも最悪な。
「くっ。総ちゃんっ」
「いや、違うっ。美鈴さんが勝手に見てるだけだっ。俺は無実だっ」
美鈴さんのせいで、和やかな雰囲気が吹き飛ぶのだった。
お酒を断つように教育しないと、そう俺は心に決めた。
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