第9話 同棲の刑!?

 放課後、約束した通り、姫川は俺を無視して先に下校した。それから時計で五分過ぎるのを確認し、学校を出る。


 マンション近くに差し掛かると、入り口で姫川が立っているのが見える。近づいて叱ってやる。


「おいっ! お前のせいで恥かいたぞ」

「ごめん……くすっ」

「笑うなっ。けど、お前ぜんぜんしゃべらねえから」

「寂しかった?」

「んなわけねえよっ!」

「それじゃあ、大家さんにお願いできる?」

「おうっ」


 エレベーターで最上階を目指す。エレベーターを降りてすぐ、大家の家があった。俺が玄関ベルを鳴らす。


『はい?』

「あっ、七階の新田です」

『ああ、新田くん。ちょっと待ってね』


 ほどなくして玄関扉が開けられる。大家は二十代後半くらいの年上女性。親から管理を任されているらしい。


「どうしたの?」

「あの、隣の姫川さんがカギを無くしたみたいで」

「あらっ、ほんと? スペアがあるからちょっと待ってて」

「ありがとうございます」


 無事に解決して安堵した俺が隣を見ると、ぶーーっと、ほっぺたを膨らませている姫川。


「な、なんだよ?」

「えらく綺麗な人だね」

「まあな。モテるだろうな」

「ふんっ」

「なんだよ!」


 機嫌が悪すぎる。ここに引っ越す時に会ったはずだが。


「お前、すずさんに会ったことないのか?」

「親が手続きしてくれたから。ふーーん、美鈴さんって呼んでるんだ」

「な、なんだよ?」


 ジト目で顔を近づけてくる。


「私は名前で呼ばないのに?」

「美鈴さんとは長いんだよ。もう二年以上になる」

「ふんっ」


 ――何なんだ! せっかく探してくれてるのに、態度悪すぎだろ!


 美鈴さんが奥から戻ってきた。


「はーい。コレ」

「あっ、どうも助かります」

「あっ、あなたが葵ちゃん?」


 そう言われ、頷く姫川。


「ご両親がよろしく、って言ってたわ。どんな子かと思ったらいい子ね」


 それまでムズムズしていた姫川が突如言い出す。


「あ、あのっ。ちょっと良いですか?」

「はい?」

「私、あの部屋、解約します!」

「えっ!?」


 俺と美鈴さんは同時に声を上げる。


「ど、どうして? ご両親の所に帰っちゃうの?」

「いえ……隣に引っ越しますっ!」


 突然の出来事に、この場が凍り付く。


「ちょ、ちょ、ちょっと待てっ! ダメだっ! そんなことっ!」

「なんで? 結婚するんだから」

「しねえよっ!」


 その話を聞いて、


「あなた達、そういう仲だったのね。お姉さん、応援するわ!」

「えーーーーーーー!」


 美鈴さんに裏切られた。今まで態度の悪かった姫川が飼い主に懐くイヌの如く、美鈴さんに笑顔を振りまいている。


「ありがとうございます! 私、永久就職します!」

「絶対、退職しちゃダメよ!」

「はいっ!」


 俺の意見などそっちのけで話が進む。こんな暴挙、許されてなるものかっ。


「反対っ! 反対っ! 俺は認めねえっ!」

「ひ、酷い……。うえ~~~~~~んっ!」


 しゃがみ込み、両手で顔を押さえる姫川。


「ダメよ、新田くん。女の子を泣かせたら」

「け、けど」

「罰として同棲の刑に処す」

「そ、そんなっ!」


 俺はその場にうなだれた。


「あっ、でも、まだ若いから避妊はして頂戴ね?」

「はいっ! 気を付けます!」


 すっくと立ちあがり、そう宣言する姫川。


「テメエっ! 嘘泣きじゃねえかっ!」

「てへっ」


 こうして、同棲という最悪な結果を迎えるのだった。

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