第7話 添い寝

 晩飯を食べ終えると、姫川が片づける準備をしている。


「あっ、俺がやる!」

「えっ、良いの?」

「洗い物くらいさせてくれ。お礼だ」

「ふふふ。総ちゃんは良い旦那さんになるよ」

「バカ言え! ならねえよ!」


 全ての後片づけを済ませ、やることは無くなった。そこで、今日の気になったことを聞いてみる。


「お前、よくあの高校に俺が居るって分かったな」

「えっ、全然知らなかったよ?」

「そ、そうなのか」

「お父さんの仕事の都合で、またコッチに戻ってこられることになってね。絶対に総ちゃんを探すって決めてたんだけど、家も知らないし、どこに通ってるのかも分からないから困ってたんだぁ。そしたら、転校初日でまさかの隣席。私、運命感じちゃったよぉ」


 くっ付きたがる姫川を引き剥がし、


「でも、よく分かったな。何年も会ってねえのに」

「そりゃあ、すぐに分かったよ。苗字で」

「そっちかよっ」

「ウソウソ。冗談だよ。十年間ずーーーっと想い続けてたんだよ? どんなに成長しててもすぐに分かった」

「……そっか」

「うん……。目つきはちょーーっと悪くなってたけど」

「余計なお世話だっ!」

「ふふふ」


 にこやかに笑っているかと思えば、真剣な表情で、


「でも、どうして総ちゃんは分からなかったの? 私、そんなに変わってた?」

「いや、男だと思ってたからな」

「それでも面影あるでしょ?」


 ――違う所が面影を妨害してんだよっ!


「あっ、そっか。私、あの頃より背伸びたもんね」

「そこじゃねえよ!」

「えっ、じゃあどこ?」

「あ、ああ、いや、なんでもねえ」

「今は思い出してくれたから良いけどね」


 徐に立ち上がり、あるところへ向かう姫川。


「何してんだ?」

「お風呂に入ろうと思って」

「いや、今日はやめとこうぜ?」

「えっ、なんで? 総ちゃんの前ではちょっとでも清い体で居たいでしょ?」

「ふ、服は? 何に着替えるんだ?」

「あっ、そうだね。じゃあ、総ちゃんの服貸して?」

「俺の服でお前が着れる物なんて……」


 言われてクローゼットを探す。横から一緒に見ていた姫川が、


「あっ、ワイシャツ!」

「それが何だよ?」

「男の人は好きなんだよね? 下穿かないでワイシャツだけ着るの」

「はあ!? そんなんどこで聞いたんだよ?」

「漫画で見たんだけど」

「あんなもん作り話だ。おっ、これで良いじゃねえか」


 見つけたのはシンプルな黒のジャージ。


「えーーーー、可愛くない」

「文句言うなっ」

「……はーい。じゃあ、一緒に入ろ?」

「入るわけねえだろ!」

「しゅん……。じゃあ、入って待ってるね?」

「待つなっ」

「ううぅぅ」


 そう言って、浴室に入った姫川。


 ――くそっ! なんで俺は想像してんだよ! 女は嫌いなはずだろ! そ、そうだ。先に寝よう。


 逃げるようにベッドに入り、先に眠りに就いた。




 ――ッ!


 少しだけ寝てしまったようだ。なぜか背中が暖かい。


「って、お前! 何してんだ!」

「お風呂あがったら寝てたから」


 姫川が俺の背中にピタリとくっ付き、添い寝している。やわらかいものが背中に。


「おい! 放れろ!」

「えーーー。ここしか寝るとこ無いよ?」

「じゃあ、俺が床で――」


 さっきよりも強く抱きついてきた。


「良いじゃない、コレで。私の夢、叶えてよ」

「くっ! し、しょうがねえなぁ……」


 姫川に逆らえず、ふたりこの体勢のまま眠りに就くのだった。

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