第4-16話 あかりに説明させたい
ロビーの椅子に座り、私は双方から事情を聞いていた。
「何があったわけ?」
「いや、その、なんというか……」
「お前がまた、マナ様を傷つけたんだろう!?」
「落ち着け、ギルデ」
掴みかかろうとするギルデを、ハイガルが押さえる。斜めに座らせたとはいえ、一緒にいさせるのは危険だ。
「あかり、ギルデに説明してあげたら? 納得しそうにないわよ」
あかりは、赤いままになった頬を擦り、深呼吸しながら、
「……マナに、婚約しないかって言われて」
「それで?」
「断った」
「なんで!?」
「お前だけは許さない! 死ね! 榎下朱里ぃぃ!」
「ギルデ……!」
私がとやかく言うことではないのかもしれないが、なぜ断るのか、わけが分からない。まあ、私だけ分からないのは、いつものことだけれど。すると、あかりは私のために説明してくれた。
「お察しの通り、昔は僕たち、婚約してたんだよ。棚に並べてある宝石たちは、全部、昔、僕がマナに贈ったんだ。まなちゃんが持ってる指輪もね」
「一体、何があったの?」
「それは……」
「マナ様はあかりに捨てられたんだ!」
「捨てたっていうのは、さすがに人聞きが悪いって。婚約破棄ね」
「同じじゃないか!」
「聞こえ方が違うじゃん……」
なんとなく、関わるとろくなことにならない気がしてきた。この場から離れることを考え始めるが、ギルデを落ち着けないことには去ることもできない。
「ていうか、ギルデはマナの何なの? さっきからギャーギャー言ってるけど?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれたね。僕は、マナ様の親衛隊だ!」
「ストーカー……?」
私が引いていると、あかりが代わりに答えた。
「違う違う。アイちゃん公認の親衛隊。ほら、アイちゃんって、ファンが多いからさ。そういうファンたちから、ギルデが守ってるんだよ」
「そう! 僕の本職は学生じゃない。マナ様の公式ゲームアプリを開発したり、マナ様のグッズを製作したり、マナ様の身の回りの安全を守ったりしながら生計を立てているんだ!」
ギルデの声が、静かなロビーに響いた。知らない間に、マナ様ラブと書かれたハチマキをつけ、マナ様親衛隊と書かれたハッピを来ている。
「見てくれここ! マナ様の直筆のサインだ! これが公認であることの証だ! マナ様の手が触れて以来、一度も洗っていない!」
「ある意味、あんたが一番危険よ……」
つまりギルデは、部屋にこもって常日頃、マナを崇め奉っているというわけだ。マナも、よくこんなやつを公認したものだ。
「親衛隊は全国、いや、世界中にいるというのに、なぜ、なぜ、お前なんだ榎下朱里ぃぃいい!!」
「ギルデ、すまん」
ハイガルはギルデのみぞおちに拳を食らわせた。ギルデは気を失ったらしい。うるさかったし、興奮しているようだったので、仕方ないとは思う。
「……それで、あんた、どうする気? このままだと、本当に隣国の王子と婚約させられかねないわよ?」
「それは……」
「マナが求婚を受けるはずがないなんて、思ってるなら、見当違いも甚だしいわ。あんたにはマナしかいなくても、マナにはあんた以上にいい人なんて、山のようにいるんだから」
「重々承知してます、はい……」
「それで、どうすんの?」
「それでも、やっぱり、婚約はできない。──今は」
うつむいて、あかりは結局そう言った。
「……何を躊躇うことがあるの?」
「それは……」
あかりは口をつぐむ。何を聞いても、答えそうにない。
「そもそも、なんで婚約破棄なんてしたの?」
「いやあ、ちょっと、怖くなっちゃって」
「嘘ね」
「嘘じゃないよ」
どうしても、答える気はないらしい。
「何も話さないなら、あたしは協力しないわよ。そもそも、頼まれてもいなかったけど。部屋で宿題やるから」
時間の無駄だ。そう判断し、私は席を立つ。
「待って、まなちゃん──」
「あたしはマナと違って優しくないわよ。話す気になったら、部屋に来なさい」
「……十分優しいじゃん」
そんな声が聞こえたような気がした。
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