第2-45話 マナの考えが知りたい

 城に帰ると、マナとともに、私たちは玉座の間に呼び出された。ハニーナと話したマナは、すっきりした顔をしていた。お土産にと、美味しいハチミツをもらったが、こちらは手ぶらだったので、申し訳ない。


「それで? 話を聞かせてもらおう」

「そう言われても。マナ、全然話してくれないんですよねえ」


 あれからずっと、マナは私たちが何を聞いても答えなかった。だが、表情を見る限り、歌っても大丈夫だという確証が得られたのだと思う。代理王もそれを感じ取ったのだろう。


「──まあいい。あとは、爆破予告と声だが」

「高密度の魔力が込められるものなら、なんでも爆弾になるし、すでに仕込まれているとしたら厄介ね……」


 アルタカには科学を利用した爆弾が設置されていたが、材料を持ち運ぶのが少しだけ大変だ。知識がある人も、そう多くはない。となれば、魔法爆弾の可能性がきわめて高いだろう。


「歌えば爆発しないという、犯人の言葉を信じるしかないのでしょうか……」


 モノカの言葉に、私は考える。魔法爆弾を作るためには、その物に触れる必要がある。被害を出そうと思えば、できるだけ、大勢が持ち歩くものがいい。それを持っている人すべてが、歩き回る爆弾になるからだ。


 すでに仕込まれているとすれば、犯人はいつでも爆発させることができるということ。それは、儀式が終わった後、一週間ほど、爆弾として機能するだろう。


「それはできない。賭けるにしても、想定される被害が大きすぎる」


 私より先に、トイスがそう答えを出す。祭りをやるにしても、やらないにしても、屋台がある限り、人は集まる。それらを中止にはしないようなので、なんとかして、爆弾を見つけるしかない。


「声はどうする?」


 そう、私は白々しく尋ねてみる。さも、何も知らないといった風を装って。


「アイちゃん、本当に心当たりはないの?」


 あかりが落とし物を探すくらいの感覚で尋ねた。マナはさらさらと、紙に魔法で記し、私に読むように指示する。人数が多いので、読み上げないと全員に伝わるまでに時間がかかるからだ。


「特には。気がついたときには、この状態でした──」


 その下に、


 ──あたしは犯人を知ってるけどね。もちろん、声がどこにあるかも。


 と、書かれていたが、そこは読まなかった。


 それでは、マナに知っていると教えるようなものだと、後で気がついたが、もう遅い。


「こちらでも考えておこう。お前たちは休め」


 そう言われて、私はマナの方を見たが、マナは何も言おうとはせず、それどころか、私に抱きついてきた。誰にも今の話はしていないと、マナは訴えているのだろう。


「──マナはいつもそうやって、君にくっついているのか?」

「ええ、わりと。それが何か?」

「王族として、常に背筋を伸ばし、顎を引くべきだ。姿勢については、何度も教えているはずだが?」


 すると、一枚の紙切れがエトスの元に向かっていった。それを見た、エトスの顔が大きく歪む。


「なんて書いてあるんですかあ?」


 あかりがそう尋ねるが、エトスからは返事がない。それを見て、赤髪の女性が、後ろから肩越しに覗く。


「──お兄様、うるさいです。私はもう子どもではないのですから、放っておいてください。と、書いてありますね。ふふふっ」


 硬直して動くこともできないエトスの代わりに、モノカが読み上げた。そんなエトスの様子に、皆一様に顔を背け、肩を揺らす。


「わ、笑うな!」


 動揺するエトスがそんなにおかしいのか、他は私以上に笑っていた。真顔でいるのはマナくらいだ。


「正式な場ではないのですから、少しくらい気を抜いてもいいのではありませんか?」

「しかしだな……」


 モノカに説得されるエトスを置き去りにして、私とあかりとマナは、部屋を出た。


「じゃあ、帰ろっか、まなちゃん」

「あれ、言ってなかった? あたし、今日はマナのところに泊まることになってるんだけど」

「え、何それ、聞いてないよ、ねえ」


 マナに渡された紙には、大きくこう書かれていた。


「嫌。──だそうよ」

「まだ何も聞いてないのに……!」


 マナに押されるまま進むと、城の入口にたどり着いた。王城は広いので、さすがに一日や二日では把握しきれない。とはいえ、この道は何度か通ったので覚えていた。


「え、嘘。ほんとに僕だけ帰るの?」

「どうぞ、お帰りください。だって」

「ほんとに? え、ほんとに?」


 扉の近くに佇む兵士が扉を開け、あかりに槍を突きつける。そうして、半ば強制的に、あかりは外に連れ出された。


「……行きましょうか」


 マナが頭の上で頷いたのを感じとり、私たちはエレベーターに乗り込んだ。

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