第2-43話 ハニーナに会いたい
黄色い二十メートルほどの高さの建物。これが、自然によって生み出された物だというのだから、世界は確実に素晴らしいものだと私は思う。
「ぶんぶんぶんしてる! ぶんぶんぶんぶん! 無理、ほんとに無理!!」
あかりが顔を青ざめさせているのが、あまりにも憐れだった。その滑稽な顔をもう少し眺めているのも悪くはないが、その背景を知っている身としては、少しばかり良心が痛む。そのため、
「あれ? ぶんぶんしなくなった」
「姉さんが魔法で音を消してくれたんだろ」
「あ、そっか。その手があったね。さすがアイちゃん!」
「マナがやれやれって顔してるわよ」
まさにその通りだ。さすが、まな。私のことがよく分かっている。この愛を今すぐに言葉で伝えられないのが残念でならない。
仕方ないので、いつも通り後ろから抱きついて、頭に顎を乗せる。相変わらず、ちょうどいいサイズ感だ。
「背が縮むって言ってるでしょ……!」
わりと、本気で怒っているようだが、そう言われてもやめる気はない。まなにくっついていると、魔力が非活性化される。要は、エネルギー消費が抑えられるので、とてつもなく落ち着くのだ。
とはいえ、理由はそれだけではないのだが。
「あんた、なんでいつもくっついてくんの?」
答えてやりたいところだが、声が出せないので答えられない。声が出せたら答えるのか、と言われれば、答えない。
「声が出せないって、意外と便利だねえ」
あかりの言葉に私はため息をつく。便利なわけがない。とはいえ、馬鹿とハサミは使いよう。どんなものでも、使い方次第で便利になる。要は、私の使い方がいいのだ。そして、役に立つはずの自身の使い方すら悪いのが、あかりだ。魔法の才能を無駄にしている。
「便利なわけないだろ。そう言うなら、あかりさんがしばらく黙ってみろ」
トイスは本当に優しい弟だ。昔から仲は良かったし、色々と面倒もみてやった。つまり、私の教育が良かったのだろう。もちろん、トイス自身による影響も大きいけれど。
「……」
そうして、あかりは無言になったが、声がなくなると、代わりに顔がうるさいというのが分かっただけだった。私はその、普通より幾分か恵まれた顔面を殴った。
「顔っ!?」
「あんた、本当にうるさいわね……」
──そのとき、少し遠くに影を見つけて、私は立ち止まるよう、三人を手で制止する。近づく影は、黒髪の女の子の容姿をしており、衣服を身にまとっている。しかし、触覚、羽、そして、背中から生えた、刺されたら胴体がぶつ切りにされそうなほどの巨大な針──、
「あなたがハニーナ様ですか?」
話せない私の代わりに、トイスが問いかける。ハニーナはモンスターだが、しっかりと意思疎通もできると、まなが言っていた。
「は、はい。私がハチプーたちを統べる女王、ハニーナ、です」
いかにも、気弱そうな感じだが、雰囲気や周りのハチプーたちの視線、それに、ハチプーたちが赤子のような容姿であるのに対して、少しばかり成長した容姿であるのを見るに、彼女が女王で間違いない。
「えっと、トイス様ですよね?」
「はい。お初にお目にかかります」
さすがは女王。モンスターとはいえ、こちらの事情は把握しているらしい。おそらく、ここにいる全員の名前を知っているだろう。
「それで、今日は、その、どういったご用でしょうか? 蜂歌祭は明日、ですよね?」
「はい、こちらも認識は同じです。ただ、少し、ご相談がありまして」
「──分かりました。どうぞ、こちらへ」
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