第2-22話 聞き流したい
まゆの腹具合に合わせて、私たちは早めに昼食をとった。あかりの作ってくれたお弁当は、いかにも可愛らしい感じだった。かまぼこが花の形になっていたり、おにぎりに海苔で顔がつけてあったりするのだ。見ているだけで、なんだか嬉しくなってくる。やはり、誰しも得意なことの一つや二つはあるものだなあと感心しながら、完食し、今は町を散策していた。
「すごいね! 昔って感じ!」
「そうね」
私はどうしても、盗まれた指輪のことが頭から離れず、せっかくのお祭りだというのに、まったく楽しめそうになかった。だが、いつまでもそうしていられないと、頭を振って、忘れることにした。
一応、この辺りにも屋台は出ているのだが、宝石すくい(本物)やら、食べられる雲やら、私たちとは感覚が違う出店がいくつもあって、見ている分には飽きない。
そして、店の人たちは、本気で稼ぐ気はないようで、呼び込みなどもしていないようだ。やる気がないようにも見えるが、私にとっては、ゆっくり見られて居心地がいい。
半ば無意識に私は親指をなぞり、その行為によって指輪を盗まれたことを思い出した。
「はあ……」
「どうする? まだ時間もあるし、指輪、探しに行く?」
「いいえ。まずはあかりたちと合流しないと。また、無事にここに戻ってこられるか微妙だし」
「人がゴミみたいにたくさんいたもんね!」
「ゴミとか言わない」
そうして、少し待っていると、足元に何かが転がってきた。すぐに、それがリンゴだと気がついた。私はそれを拾い上げる。
「嬢ちゃん、そいつぁーオレのだ、投げ返してくれー」
言われた通りに投げ返そうとして、声の主がレックスであることに気がつく。私が呼びかけようとすると、レックスの視線が一瞬、城の方を向いたような気がした。私は頭を巡らせて、すぐに気がつく。
──なるほど、ここだと私たちの行動は筒抜けだということか。ということは、このリンゴは、何か意図があって投げられたものだろう。
その赤い表面をよく見ると、小さな文字で、「宝石と雲の間、一時間後」と書いてあった。なぞなぞだろうかとも思ったが、宝石も雲も、先ほど見かけた、屋台のことだとすぐに気がつく。ここは屋台がぎちぎちに詰まっているということもなく、わりとまばらに並んでいて、隣の屋台とも感覚が開いている。人が少ないので、自然と屋台の数も減るのだろう。
私は適当なことを言って、リンゴを投げ返す。
「はい。次からは、気をつけなさいよ」
「ほいほい──って、オイ、どこ投げてんだよ!? あかりじゃねえんだから勘弁してくれや……!」
そう言って、レックスは転がるリンゴを追いかけていった。あかりと一緒にされては堪ったものではないが、百発百中、同じところに投げることができないのは、人なので仕方ないと思う。
「ねえ、まな、雲食べたいー」
「あれは、無理よ」
「えー、なんでー?」
「あの食べられる雲ね……一個でトンビアイス十個買えるの」
「トンビアイス十個……!? た、高い……」
当然、そんなお金は持っていないので、まゆには諦めさせた。宝石すくいは、全部本物かつ大粒らしく、一回でトンビアイスが一年分は買える。
「じゃあ、隣の占いは?」
「トンビアイス一個分ね。まあ、できなくはないけど……」
「じゃあやろー!」
「お姉ちゃんは、占いなんていう形に残らないものと、食べたら絶対に美味しいトンビアイスと、どっちを取るの?」
「うっ……、ま、まなの意地悪!」
「なんとでも言いなさい。あたしの目が赤いうちは、無駄遣いなんてさせないわよ」
「けちけち! けちくさい! けちばばあ! 年増! ちび!」
「あっそ。もう二度とトンビアイスは買わないわ」
「うわーん! まななんて、もう嫌いだもん!」
「嫌いで結構」
ピーキャー騒ぐまゆに、私はうんざりする。姉妹だからか、他の人に言われても気にならないことも、まゆに言われると、かなりイラっとする。だが、いちいち、まゆと同じテンションで騒いでいてはこちらが持たないので、聞き流すように努力している。
──してはいるのだが、
「バカ! アホ! ドジ! マヌケ!」
「それ以上騒いだら、王都に置き去りにするわよ」
「やだやだやだー!」
「あーもう! うっさいわね!」
耐えきれずに、叫んでから、しまったと、慌てて、手で口を塞ぐ。そして、すぐに、まゆの手を引き、その場を離れた。
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