第2-20話 内側の門を通りたい
当日は、許可証のある人とない人で列が分かれていた。あらかじめ、許可を取っていたおかげで、私はすんなり通ることができた。
「よっ、嬢ちゃん、昨日ぶりだねぇ」
「はい。こんにちは」
「通っていいぜ。ただし、心していけよ」
昨日の門番にそう言われ、私は警戒よりも、不安と疑問を強く抱いた。そして、それは、門を越えた瞬間に氷解した。
──そこにはまさに、人の海とでも形容すべき光景が広がっていた。四方を見渡せば、人ばかり。一度飲まれれば、自由に動くことはほぼ不可能だろう。
「密だわ……さすが、王都とでも言うべきかしら。まゆ、押し潰されないように気をつけなさい」
少しだけ開けてあるチャックの隙間から、まゆは外の景色を覗く。
「うわあ、潰されて死にそー……」
「屋台でも見ていこうかと思ったけれど、無理そうね……」
仕方なしと、私はリュックを前に抱え、思いきって人波に飛び込んだ。
「ぐええっ」
「きゃー! あははっ!」
後ろからどんどん押される。私の意思では制御できない勢いだ。なんとか、前に進まないように押し返すが、ほとんど無意味に等しい。
「お姉ちゃん、生きてる!?」
「うん、たのしー!」
「それは結構なことね!」
本当の波に飲まれているかのように、私は何もしていないのに、ぐいぐい進んでいく。背が低いので、周りの熱気で息苦しい。その上、辺りの様子がほとんど分からない。
「まなー! 見て見て! トンビアイスの屋台!」
まゆの声を聞き、横目で確認すると、昨日見たのと同じ、トンビアイスの屋台が確かにそこにはあった。となれば、目的の門までは後少しのはずだ。
「内側に行かれる方はこちらでーす!」
昨日と同じ、美人なお姉さんの声が、左の方からわずかに聞こえ、私はないに等しい隙間に、無理やり体をねじ込み、なんとか、人混みを抜ける。
「はあっ! やっと抜けたわ……」
「お疲れ、まな」
予想以上の疲れに、私は深呼吸をする。やっと、少し新鮮な空気が吸えた。
「──今日は通られますか?」
「ええ、ぜひ」
「どうぞ、こちらへ」
私は二枚の門をそれぞれ抜けて、やっと目的の場所へとたどり着く。ここは、人もかなり少ない。壁が分厚く、遮音されているようだ。あまりにも先ほどの喧騒と対照的で、その静けさが落ち着かないくらいだった。
「どうぞ、蜂歌祭をお楽しみください」
きっかり、直角の半分のお辞儀をして、門番は持ち場へと戻った。この固そうなガードを、あかりはどのようにして抜けるつもりなのだろうか。
「……なんだか、すごい場所に来ちゃった感じね」
「すごい場所って、ふわっとしてるねー」
「お姉ちゃんに言われたくないわよ。──少し、大人しくしてて」
私は周りの様子をうかがう。所々、石造りの雰囲気に似合わない高性能な監視カメラが設置されており、人目もまばらだが存在する。
「もう少し、人目につかないところに行きましょう。そこで出してあげるから」
「わーい……!」
まゆなりに声を抑えて喜んだらしい。そんなまゆに、私は苦笑する。おそらく、壁の周りが一番、人目につきにくいだろうと判断し、私は壁に沿って移動し、草原のような場所にたどり着いた。周囲に人の気配がないのを確認し、私はリュックを開ける。
「出ていいわよ」
「ぷはあっ! しゃばの空気は美味しいねー!」
「しゃばとか言わない」
「でも、不法入国……入門? だよ?」
「それ、絶対、外で言っちゃダメよ、いい?」
「はーい!」
私はまゆと手を繋ぎ、罪悪感を無理やり振り払って、適当に見て回ろうと、歩き始める。
──この壁の内側に、王城からの死角などないということも知らずに。
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