第1-4話 宿舎の警備に安心したい

 鞄を背負ってはいるが、マナは手ぶらだった。対照的に、あかりの買い物袋は両手に下がっており、どちらも容量ギリギリまで詰められている。一方、私は左手に買い物袋を下げ、右手に米を抱えていた。


「よいしょっと……」

「お持ちします」

「結構よ。自分のものは自分で持つのが当たり前でしょ」

「私たち、鍛えるのが趣味なんです。持たせてください」


 マナはひょいと軽そうに買い物袋を持ち上げると、続いて私から取り上げた米を、あかりにパスした。あかりはそれを、咄嗟に右腕で受け止め、心なしか、顔を引きつらせる。


「あかりさんも、鍛えるのが趣味ですよね?」

「え? ああ、うん、そうだねー」


 あかりの言葉に心がこもっていない気がするのだが……まあ、いいか。


 両手が空いたので、私はまゆと手を繋ぐ。そうして、私たち四人は、スーパーでの用を済ませ、それぞれの家を目指して歩き始めた。私とまゆは今日から、宿舎に住むことになっており、同じ部屋だ。


「まなさんの家って、この辺りですか?」

「ええ。──それにしても、学校からすぐだったわね、スーパー」

「お隣さんだったねー」


 マナから尋ねられ、私は肯定の返事を返す。そんな私の呟きをまゆが拾う。


 校門から歩いて一分とかからない場所に、スーパーはあった。案内してもらう必要があったのだろうか。とはいえ、宿舎とは反対方向なので、私とまゆだけでは気がつかなかった可能性もある。


 そんなことを話しているうちに、あっという間に宿舎が視界に入った。この近辺には、ここ以外の宿舎はない。つまり、


「まあ、ここまで一緒だった時点で、薄々気づいてたけれど」

「偶然ですね」

「まさか、同じところに住むことになるとはねえ」

「みんな一緒だー!」


 なんとも奇妙な運命だが、どうやら、私たちは、同じ宿舎らしかった。無表情なマナに、本当に驚いているのか不明なあかり、そして、まゆだけが純粋に喜びを表していた。


 木組みの壁に、黒い瓦の屋根。この宿舎は、二階建て横長の古民家を再利用している。


 こまめな修理と行き届いた手入れがなされており、築数百年というのが信じられないくらい、綺麗だ。古い外装ではあるが、汚れの一つも見当たらない。この清潔で、古風な雰囲気が私は気に入っている。とはいえ、決め手は値段だけれど。


 ちなみに、一応、宿舎なのだが、最大収容人数は八人と少なく、その上、ルールも設けられていない、ただの箱だ。むしろ、シェアハウスに近い。


「うわあ! なんかすごーい!」


 宿舎に着くと、まゆは私の手を離れて先に中に入っていった。制止など聞きそうにないその小さな背中を、私は見送る。


「部屋までお持ちしますね」

「え、ええ……」


 部屋が分かるのかとか、部屋の鍵は持っているのかとか、どれだけ筋トレしたいんだとか、気になる点はいくつかあったが、特に尋ねることはしなかった。荷物を運んでくれるマナに続いて、私は宿舎の中に入る。


 そこは、ちょっとしたロビーのようになっており、左手には真っすぐ伸びた通路の右側に扉が四つ。右手には、背もたれつきの小さな椅子が一つ置けるくらいの狭いスペースがある。


 それから、正面には、長方形の机に、二つずつ向かい合うようにして、椅子が四つ並べられていた。椅子と机も含めて、ここのものはほとんどが木製だ。


「管理人さんは?」

「ルジさん、今日はいないみたいだね。アイちゃん何か聞いてない?」


 あかりからアイちゃんと呼ばれて、マナが振り返る。どうやら、あだ名というやつらしい。由来がまったく分からないけれど、二人は昔からの知り合いなのだろうか。まあ、どうでもいいけれど。


「簡単な手続きは私がするように頼まれています」

「そんなに忙しい人なの?」


 尋ねる私にマナは首を振る。


「いえ、三日間徹夜でゲームをしていたそうです。今は寝ているのではないでしょうか」

「うわ、なんてやつなの……」


 今日来ることは、あらかじめ伝えておいたはずだが。本当にここで良かったのか、心配になってきた。しかし、鍵もまだ渡されていないのだけれど。


「鍵は私が預かっていますから、安心してください」

「は?」

「どうかしましたか?」

「……まあいいけど」


 部屋は一度も訪れていないし、見られて困るような物も送っていないけれど。──ここにプライバシーは存在しないのだろうか。


 本当にここの宿舎で良かったのか、私は初日からかなり心配になった。

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