第3-3話 砂を溶かした犯人を知りたい
靴を履き、玄関から出ようと、見ると、校庭はまるで沼のようになっていた。私はしゃがんで砂に手を着き、自分の体が沈まないことを確認する。
「やっぱり、魔法ね」
私に魔法は効かない。発動中の魔法であっても、私が触れれば、すぐに効果が消えてしまう。魔法が使えないからだ。
私はどろどろした砂の上を走って渡る。足場がぐにゃぐにゃとして安定せず、何度か転びかけるが、そんなことを言っている場合ではない。すでに、三人とも、腰の下辺りまで浸かっている状態だからだ。
「全部で三人──よし」
私は校庭の木の枝を六本折り、近い方から順に二本ずつ手渡していく。
「いい? 枝を平行にして、体重を分散させなさい。それで沈まなくなるから。後は助けを待ってて」
そうして、無事、二人に渡し、三人目に向かうと、その女子生徒は、かろうじて腕が外に出ているが、すでに肩まで浸かっている状況だった。
「助けて!」
私は全力で腕を引っ張るが、なかなか抜けない。
「痛い痛いっ!!」
「動かないで! 余計沈むわよ!」
しかし、呼吸はできているようで良かった。このまま、動かなければ沈むこともない。そう、冷静に捉えていたのだが、
「怖い、キャーッ! 助けて、ねえ! 怖い、怖いっ!」
「落ち着いて!」
パニックになっているようだ。私には、引っ張りあげるほどの力はない。ここまで埋まってしまえば、枝で這い上がるのも難しいだろう。となれば、動かないようにしてもらうしか、方法はない。
「うっ!?」
右腕を強く引っ張られて、私は顔から地面に叩きつけられる。
「助けて、無理無理無理怖い怖いキャーッ!」
私は深く沈んでいく生徒に腕をがっちりと掴まれていた。彼女は首まで砂に浸かっており、上を見ていないと息すらできないようになっていた。
どうしようかと、方法を考える。考えて考えて考えて。
「何か、方法は……」
そのとき、女子生徒を避けるようにして、周りの砂が広がり、穴が生じた。それに巻き込まれて、私は穴に落ちる。私の身長よりも少しだけ深い穴だ。
「うぎゅっうっ! いたたた……。うげぇ、砂が……」
「こ、今度は何……?」
「落ち着きなさいよ。多分、もう大丈夫だから──」
まだ状況の理解できていない女子生徒の肩に手を置き、私は視界には映らない校舎の方角を見る。こんなことができる人物を、私は二人くらいしか知らない。
「まなちゃん、大丈夫?」
「あんた、もうちょっとなんとかできたでしょ……。口に砂入ったんだけど」
「結果オーライってことで。そっちの子も、怪我とかしてない?」
「えっと、わ、私、助かったんですか……?」
「怖かったよね。でも、もう大丈夫だよ」
こうしていると、あかりがいい人に見えてくるから不思議だ。そうして、風で浮かされて、女子生徒は穴から引き上げられる。
「保健室まで連れてくよ」
「ねえ、あたしは?」
「……ま、なんとかなるって。頑張っ!」
まだ砂は、底なし沼状態のままだったので、二人は宙に浮いたまま、移動していく。あかりがあの子に触れないというのもあるだろうが。
「え、嘘、本当に置いてくの? ちょっと、あかり!?」
私に対するこの扱いはなんなのだろうか。確かに、あかりの技術では私を浮かせられないだろうが、置いていくのはいくらなんでも酷すぎる。呪ってやる。人前で転ぶ呪いだ……。
「まなさん、大丈夫ですか?」
代わりに、穴の中に入ってきたのは、マナだった。汚れ一つなく、疲れた様子も見せずに、凛としてそこにいた。
「あたしはなんともないわ。それより、他の子は?」
「二人なら、もう助けましたよ」
「そう、なら良かった」
「当然です。私に不可能なことなど存在しませんから」
どや顔すら絵になるので、文句のつけようがない。事実だし。
「あたしをこの穴から出してくれる?」
「それは、少し難しいですね」
「前の発言と矛盾してるわよ。……でも、なんとなく、そうだと思ったわ」
私に触れれば、魔法は使えない。穴の外から魔法で上げるのは不可能だ。また、穴の中から、魔法で外に出すことも不可能。穴の深さは百五十センチほど。私が自分の力ではい上がれれば別だが、とても上がれるとは思えない。そもそも、魔法を使わずに身長より高いところに上れる人など、何人いるのだろうか。
「少し難しいとは言いましたが、無理だとは言っていませんよ」
「肩車はやめなさい」
「えー」
「えーじゃない」
最悪、マナの肩に乗って出るしかないが、あかりの魔力が続く限り、この穴は塞がらない。別の方法を考える時間はまだある。
「まなさんは本当に、仕方のない人ですね」
「あたしにも選択の権利くらいあるでしょ」
すると、マナは不意に片手を上げ、校舎の方に向かって振り下ろした。直後、どろどろだった砂が開き、玄関までのスロープができる。
「通っていいですよ」
「すごく目立つんだけど」
「昼ごはんの時間がなくなってしまいますから」
「あんたは、ご飯のことしか考えてないのね……」
肩車よりはましかと、私は諦めてそこを通ることにした。校舎にいる人たちからは、すごく見られていたけれど。
***
私たちは宿舎の部屋に戻っていた。
完全に忘れていたが、私はマナと一緒に日直だったらしく、放課後、日誌を書くのに教室に残っていた。あかりは先に部屋を冷やしておくと言って帰っていった。そして、冷やされていたのは、なぜか、私の部屋だった。
「さっきのあれ、なんだったの?」
「あれって?」
「校庭が溶けたやつ」
「ああ、あれね。ま、騒ぐほどでもないでしょ。無事に終わったんだし」
「あの後、すぐに砂も元に戻りましたし」
「それは、そうだけど──」
私は宿題とその問題について考えることを同時にやろうとして、自分が一つのことしかできない人間だったと気がつく。そして、一度、悩み始めると、それを思考から追い払うことができない。
私は机を片付けて、財布を鞄に入れる。
「まなちゃん、どこに行くの?」
「は? 別にどこでもいいでしょ」
「まだ怒ってる……。いや、置いてったのは悪かったと思ってるって。ごめんごめん」
別に怒ってなどいない。少し、ちょっと、ほんのささやかながら、イラついているというだけだ。
「ギルドへ向かわれるんですよね?」
「……あんたはなんで分かるわけ?」
「魔法の事件と言えば、ギルドですから」
「ねーねー、三人でなんの話ー?」
一人、教室でのんびりご飯を食べていたまゆは、校庭の騒動など気にも止めておらず、何があったか全く知らない。そして、誰も説明しようとしない。
「──行ってくるわ」
「私もお供します」
「みんな行くなら僕も行くー」
「……また無視なの!?」
そんなまゆには返事をせず、私たちは「ギルド」へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます