第3-2話 何かをしたい

 昼食の時間になり、手洗いうがいをしてから教室に戻ると、まゆが頑張って机を押しているのが見えた。非力すぎてまったく動かせていないけれど。


「あ、まなまな! みんなで一緒に食べよ!」

「まなちゃん、いらっしゃーい」


 もともと、近い席の集まりなのに、なぜ机をくっつける必要があるのかは分からないけれど、まゆが頑張っていたので、私は机を二つ、後ろに向ける。


「まなちゃんって、いっつも朝からお弁当作ってて、偉いよねえ」

「あんたもたまにお弁当作ってくるじゃない。マナの分も一緒に」

「あれは夕飯の残り物を詰めて、冷凍食品をチンしてるだけだから」

「あたしもたいして変わんないわよ。お姉ちゃんは少食だから、あたしのお弁当ちょっとつまむだけで満足しちゃうし」

「わたし、食べなくてもへーきだから!」


 あかりは登校中に、近くのスーパーでたまごサンドを買っていた。そういえば、マナがいないなと、辺りを見渡していると、


「アイちゃん、トンビニまで行くって。朝買ったトンビアイス、早弁しちゃったからねえ」

「トンビニって……ここから歩いて二十分かかるでしょ?」

「どうしても、ホイサバが食べたいんだって」

「ホイサバ? それ、美味しいの?」


 ホイル焼きの鯖だろうか。しかし、トンビニにはそんなもの、売っていなかったと思うのだが。


「まあ、見れば分かるよ……」


 すると、マナが教室に戻ってきた。昼休みが始まってからまだ五分程度しか経っていないが、手にはおにぎりを二つ掴んでいた。全力で走ってきたのだろう。有料のレジ袋は買わなかったらしい。


 向けられる視線に手を振り、マナは席に着く。未来の女王様は、たいそう、人気らしい。視線がこの辺りに集まっているのを感じる。以前は理由を知らなかったが、今なら分かる。


 なにせ、勇者と王女が並んでいるのだ。注目されるに決まっている。よく見ると、別のクラスからも見に来ているし。まあいいけど。


「何買ったの?」

「ホイップクリーム鯖サンドです」

「何それ……」

「ね、本当に意味分かんないよねえ──」

「美味しそう……!」

「美味しそう!?」


 甘いクリームに魚。合わないはずがない。とはいえ、私の味覚が周りと違うことくらいは、なんとなく知っている。そもそも、私には嫌いな食べ物などほとんどない。美味しくないものがこの世にあるはずない。ゲテモノは別として。


「まなさんも食べますか?」

「こっちのおかずと交換でいい?」

「あ、それ、わたしが食べたいやつ!」

「悩みますね……」

「マナちゃん、これどーお? お肉にニンジン詰めたやつ、まなが作ったの! おすすめだよー」

「お姉ちゃんがニンジン嫌いなだけでしょ……」


 引き気味のあかりを差し置き、三人で騒いでいると、


「キャーッ!」


 校庭から悲鳴が上がった。窓際の私たちはすぐに窓の外を確認する。


「何これ……」


 すぐに異変と分かった。校庭の砂や石が溶けていたのだ。溶けたそれらは、底なし沼のように、校庭にいた生徒たちを飲み込んでいく。


 今は昼食を兼ねた昼休みだが、先にご飯を食べる人の方が圧倒的に多く、まだ食べ終わるような時間でもない。それでも、校庭には確認できるだけで、三人の生徒の姿があった。


「助けないと──っ!」

「あ、待って! まなちゃん!」


 助けを呼ぶ人を目の前にして、放っておくわけにはいかない。魔法が使えなくても、何かはできるはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る