追放勇者~お前もうクビ、いらねーよ~

さとう

追放勇者~お前もうクビ、いらねーよ~

「お前はクビだ。ルキアーノ」

「え……」


 勇者パーティーの一人、道具のスペシャリストであるルキアーノは、突如としてクビを宣告された。

 いきなりだった。

 魔王城まであと半分ほどの道のりまでやってきた。それなのに……魔王四天王の一人を倒し、祝勝会を開いている時に突如クビを宣告されたのだ。

 勇者アベルはニヤニヤしながら言う。


「もうお前の道具知識は必要ない。魔王討伐後の報酬が減っちまうからな……お前はこの町でおさらばだ」

「そ、そんな……あ、アベル! ぼくたち一緒にやってきた仲間じゃないか! なんでそんな」

「聞こえなかったか? もうお前の知識は必要ないんだって」

「そんな……」

「お前が調合した道具レシピは全部いただいた。材料さえあれば誰でも調合できる。悪いな、道具以外に使い道のないお前は、もうお荷物なんだよ」

「アベル……」


 勇者アベルの意見に対し、仲間である聖女マリア、賢者ユーグドラシル、弓士エルフィーナは何も言わなかった。それどころか、賛成すらしていた。

 聖女マリアは言った。


「アベルの言う通りです。ルキアーノ、あなたはここでリタイア……さようなら」


 賢者ユーグドラシルも言う。


「ま、戦闘では全く役に立たん小僧じゃ。ここでさよならよのぉ」


 そして、弓士エルフィーナ。


「バイバイ。元気でね」


 ルキアーノは目に涙を浮かべ、俯いたままアベルに言う。


「アベル、ボクは……ボクは、仲間だと思ってたのに」

「そうだな。でもそれ、もう解消だわ。えーっと……これ、お前の私物な。じゃあな~」


 アベルは、ルキアーノの荷物を放り投げた。

 そして、会計を済ませ酒場から出て行った。

 残されたルキアーノは、一人泣き続けていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 魔王城まで進むにつれ、戦いは激化していった。

 そんなある日、とある町に到着した勇者パーティーたち。宿屋にて、勇者アベルはマリアに言った。


「マリア。お前クビ」

「え……」

「お前、聖なる力を失っただろ? もうパーティーには必要ねぇよ」

「そ、そんな……なんで、なんで力が!?」


 パーティーの回復役で聖女のマリアは、その神聖力を失った。

 回復はパーティーの要だ。その力を失ったマリアは、どうしようもないお荷物だったのだ。

 すると、勇者アベルは言った。


「実はよ、新しい聖女が来るらしいんだ。前の町で国王から手紙もらってさ……マリア、お前は強制送還。王国の教会で謹慎だとさ」

「そんな!? アベル、あなた……私を捨てるの!?」

「ああ。回復役じゃないお前、お荷物だもんな。はっはっは!!」

「アベル……」


 マリアは涙を流し、ガックリ項垂れた。

 そんなマリアの荷物をアベルは放る。


「迎えが来るまで大人しくしてろよ。じゃあな~」

「…………さらばじゃ」

「マリア、元気でね」


 ユーグドラシルとエルフィーナも、マリアに別れを告げた。


 ◇◇◇◇◇◇


 戦いは激化し、ついに恐れていたことが。

 賢者ユーグドラシルが、魔王四天王の一人に重傷を負わされた。

 アベルはやむなく、一つしかない伝説の治療薬エリクシールを処方する。四天王は倒したが、エリクシールは失い、賢者ユーグドラシルも戦線離脱を余儀なくされる。

 だが、ユーグドラシルは引かなかった。


「わしはまだ戦える!! アベル、わしは」

「しつっけぇな!! 使えねぇジジィはすっこんでろ!! 誰のせいで貴重なエリクシールを使っちまったと思ってんだ!? あれは一個しかない貴重な薬だったのに……!!」

「ぐ、ぬぅ……」

「もうテメーは必要ねぇよ!! おいぼれは国に帰って縁側で茶でも啜ってろ!! おい、このジジィが付いてこないように監視しとけ!!」

「は、はい……」

「ったく、使えねぇクズが!!」

「…………」


 アベルは、ユーグドラシルを睨みつけて出て行った。

 その後ろを、弓士エルフィーナが付いて行く。

 

「エルフィーナ……頼むぞ」

「……うん。わかった」


 エルフィーナは、ユーグドラシルに別れを告げた。


 ◇◇◇◇◇◇


 魔王四天王を討伐し、残すは魔王だけとなった。

 魔王城から最も近い廃村で、アベルとエルフィーナは焚火を囲む。


「エルフィーナ、お前もクビ。いやー、王国から手紙来てさ。新しいパーティーが来てくれるんだとよ。使えない道具屋、力を失った聖女、怪我した賢者。お前はそこそこ仕える奴だったけど、新しいパーティー来たらお役御免だ。じゃ、ここらで別れようぜ。あばよ~」

「…………馬鹿だね」

「あぁん?」

「一人で戦うつもりでしょ?」


 エルフィーナは、ずっと気付いていた。

 アベルは、仲間を守るために悪役を演じているということに。

 エルフィーナは、答え合わせをする。


「ルキアーノ。あの子はまだ若いし、道具の知識はあったけど戦いはからっきしだった。だから少しだけ一緒にいて自信を付けさせて、切り捨てるように別れたんでしょ? わたしは知ってるよ。ルキアーノの荷物に、土地と建物の権利書を入れてたの……アベル、ルキアーノの夢だった道具屋を王国でやらせるつもりでしょ?」

「…………」

「マリアのときもそう。マリア、力を失ってなんかいない。アベルが魔法で一時的に力を封じたんでしょ? マリアが教会に入ると魔法が解けるように工夫して……安全な教会で聖女として人々を癒す役目を与えたんでしょ?」

「…………」

「ユーグドラシル。彼が怪我したとき、アベルは本気で怒ってた。エリクシールを使うのになんの躊躇いもなかったよね? それに、あの新しい聖女とかいう子……ただの看護師。ユーグドラシルの看病させるために呼んだんでしょ? アベル、本気で怒ってたけど「ラッキー」って思ったはず。怪我をすればユーグドラシルにエリクシールを飲ませられるもんね。心臓に病気を持ってたユーグドラシルを治療するのには、一個しかないエリクシールを飲ませるしかないもん。賢者の魔法が必要だったんじゃない。ユーグドラシルの病気を治療するためにこの度に同行させたんだもんね」

「…………」

「そして、わたし。アベル、わたしを王国に帰すのも予定の内だよね。王国からの報奨金、ぜんぶわたしにくれるって国王陛下と約束してるんでしょ? わたしの故郷を救うためにお金出してくれるんでしょ?」

「…………」

「なんで悪役を演じるの? わたしたち、仲間でしょ? 魔王討伐、みんなで」


 次の瞬間───エルフィーナの視界がぶれた。


「あ、れ……? え、なんで……?」

「悪いな、エルフィーナ」

「あべ、る……?」

「魔王討伐は、俺に任せろ」

「ぅ……」


 エルフィーナは倒れた。

 アベルは、握っていた香り袋を焚火に投げ捨てる。

 エルフィーナが喋っている間に、風の魔法でエルフィーナに嗅がせていた。


「三日は寝てる。今のうちに王国に運んでくれ」


 そう言うと、王国兵が数人現れ、エルフィーナを運ぶ。

 残されたアベルは、焚火を見つめながら呟いた。


「悪いな。みんな……俺、みんなに死んでほしくないんだ」


 もっとやり方はあったかもしれない。

 でも、優しい仲間たちはきっと、どんな言葉でも納得しない。だからあえて突き放し、悪役を演じた。

 危険な旅に同行させ、自分の最低さを見せつけ別れさせる。

 

「俺、絶対に勝つから……」


 アベルは、聖剣を握り立ち上がる。

 目的地は、魔王城。

 この世界を脅かす魔王は、勇者アベルが一人で挑む。


 ◇◇◇◇◇◇


 魔王が討伐された。

 勇者アベルが相打ちに持ち込み、魔王は滅ぼされた。

 そのニュースは、世界中を大いににぎわせた。そして、勇者パーティーのメンバーであったルキアーノ、マリア、ユーグドラシル、エルフィーナも英雄となった。

 アベルは、帰ってこなかった。


「アベル……馬鹿」


 ルキアーノは全ての真実を知り泣いた。

 荷物の中から出てきた土地と建物の権利証で、全てを悟った。

 自分の夢。自分の道具屋を持つという夢。アベルはそれを応援してくれた。

 

「アベル……」


 マリアは、教会で祈りを捧げていた。

 聖女の力は、教会に入るなり復活した。そして、自分に魔法がかけられていたことも知った。

 全て、アベルがマリアを危険から遠ざけるための処置だった。


「馬鹿……こんなの、嬉しくないわよ」


 マリアはアベルを想い、泣いた。

 ユーグドラシルもまた、完治した心臓を手で押さえ泣いた。


「こんなおいぼれを生かすとは……大馬鹿者め」


 死が間近に迫っていた。最後くらい、賢者の知恵と魔法を役立てようとした。

 だが、それは裏切られた。勇者アベルが、一つしかないエリクシールを使うことによって。

 怪我は治り、病気も完治した。

 ユーグドラシルは、まだまだこの世界で生きなければならない。


「……アベル」


 エルフィーナは、故郷を救うことができた。

 アベルが、報奨金は全てエルフィーナに。そう言い残していたのだ。

 エルフィーナの故郷は僻地にあり、流通が少なく死の土地だった。だが、お金を手に入れたことで道路の整備をし、流通が開始され潤った。

 全て、アベルのおかげだった。

 勇者アベルは仲間を次々と追放した。

 だが、それらは全て……仲間を守るためだった。

 

 勇者アベル。彼は、真の勇者と後世に伝えられることになる。

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