05 逸可(いっちゃん)

「こうやってさ。あと何回。帰れるかな。四人で」


 詩胡。明るく笑う。 


「いつでも帰れんだろ。四人でさ」


 そのために。自分は、正義の味方になった。


 詩胡の肩に腕を回す。ようやく思春期か。遅えよ。


 しこちゃんの、腰への回し蹴り。


「いてえな、おい」


 蹴っても脚が痛くないように。うまく後ろに跳んで、勢いを殺す。


「女子にきやすくさわんな。ころすぞ?」


 お前を守るのも一苦労だってのに。まあ、いいか。無事に思春期を迎えられるぐらいになった。全ての血液型と結合し、その臓器は全ての人間に移植可能な、究極のドナー。どれだけ、お前が世界から狙われているか。


「まあまあ。生理なんでしょ」


 未柑。間に割って入る。


「みかのん。だめでしょ。女の子がそういうこと言っちゃあ」


「いいっしょ。この四人なら別に」


 みかのんは、特殊フェロモンの持ち主。守るのは簡単だったが、フェロモン分泌の関係上、欲求を満たしてやるほうが大変だった。底無しの体力。


「友達だよな。あたしたちさあ」


 精魂尽き果てるほど搾り取るくせに、友達とか気楽に言いやがる。


 違えだろ。友達未満、恋人以上だ。


「俺はそうやって、友達っていちいち口に出して確認するの、あんま好きじゃねえなあ」

 

「どうせあれだろ。言わずとも分かる、みたいなのが好きなんだろ。にいにいはお見通しだぜ」


 卦荷は死相が見える。人の死ぬ姿と毎日向き合いながら、にいにいはそれでも人のために全力で生きている。守る守らないではない。3人とも。互いの背中を護り合う。そういう関係。


「なんかさあ。格好つかないじゃん」


 にいにい。みかのんにくっついて守られている。


 俺にもお前を守らせろよ。


「なんだなんだ。あたしとおともだちじゃ不服かあ?」


 3人で、揉み合う。俺たち3人は。全力で、互いを守って。互いを支えにして生きる。そのための覚悟も。生きていくための心構えも。ある。


「わたし。先帰るっ」


 しこちゃんが、走り去る。


 やべえ。追わないと。


「にいにい。耐えられる?」


 みかみかの声で。追おうとする足を止めた。


 にいにいの様子がおかしい。誰かの死相を見たのか。みかみかの胸に抱きついている。普段の怖がりかたとは、何かが。違う。


「揉め揉め。ただで使えるヒーリング装置だぞ?」


 にいにいが落ち着くのを。じっと待つ。


「ありがとう。たすかるよ」


「にいにいのためなら一肌も二肌も脱ぐぜ。するか?」


 みかの胸から、にいにいが顔を上げる。


「いや。それは後だ。にいにいは見ちまった。しこちゃん。死期が近い」


「なにっ」


 まずい。


「俺は無理だ。しこちゃんの死んだ姿は。見てるだけでも吐きそうになる」


「落ち着くまであたしが担ぐよ。いっちゃん、先に」


「わかった」


 俺が行かないと。


「身体がぐちゃぐちゃになってた」


 身体が、ぐちゃぐちゃ。それしか、手がかりがない。


「俺は何も特殊能力とかはないからな。気合いでなんとかするぜ」


 走り出す。


 全員助ける。とにかく。全員。


 そのために。自分はいる。





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