04 卦荷(にいにい)

「こうやってさ。あと何回。帰れるかな。四人で」


 そういった詩胡の顔から。死相が見えた。


 手の震えを。かろうじて耐える。


「いつでも帰れんだろ。四人でさ」


 自分の震えを見透かしたかのように、逸可がしこちゃんの肩に腕を回して自分への視界を遮ってくれる。


 そして、未柑がこちらに近付いて。手を握ろうとしてくれたけど。


「いてえな、おい」


 しこちゃんがいっちゃんを蹴り飛ばしたので。手は繋がれずに終わる。


 どうしよう。


 見知らぬ人なら、まだいいけど。よりによって。しこちゃん、なんて。


「女子にきやすくさわんな。ころすぞ?」


 しこちゃん。元気よく威嚇している。でも。死相が。やっぱり。見えた。


「まあまあ。生理なんでしょ」


 みかのん。自分に意識が行かないように、わざと生理とか言って気を引いてくれた。


「みかのん。だめでしょ。女の子がそういうこと言っちゃあ」


「いいっしょ。この四人なら別に」


 みかのん。自分といっちゃんの間に挟まって、肩に腕が回ってくる。震えていた手を。みかのんの腰に添わせてしこちゃんから見えないようにした。


「友達だよな。あたしたちさあ」


 いつも。こうやって、ふたりにはたすけられている。


「俺はそうやって、友達っていちいち口に出して確認するの、あんま好きじゃねえなあ」


 いっちゃん。コミュニケーションがとりやすい形で、不自然じゃないように会話を投げてくれた。


「どうせあれだろ。言わずとも分かる、みたいなのが好きなんだろ。にいにいはお見通しだぜ」


 かろうじて。普通の返答を。


「なんかさあ。格好つかないじゃん」


「なんだなんだ。あたしとおともだちじゃ不服かあ?」


 いっちゃんとみかのんが揉み合う。その間に挟まって。みかみかの胸といっちゃんの身体にうまく潜り込んで。しこちゃんの視線をかわす。ふたりの身体。暖かい。


「わたし。先帰るっ」


 しこちゃん。走り去っていった。


「にいにい。耐えられる?」


 みかのん。胸や身体を押し付けて、安心させようとしてくれた。


 混乱した心を。なんとか落ち着けていく。みかのんの胸と身体。暖かい。


「揉め揉め。ただで使えるヒーリング装置だぞ?」


「ありがとう。たすかるよ」


「にいにいのためなら一肌も二肌も脱ぐぜ。するか?」


 みかのん。顔を少し朱らめて、訊いてくる。


「いや。それは後だ。にいにいは見ちまった。しこちゃん。死期が近い」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る