流行病の終息と懐く双子


「うぅ……ロッデェ……」

「ほら、そんな、くっついて泣いてばかりいたら、困らせてしまうだけでしょ?」

 

 リーゼロッテの言葉に、ヴェルナーは渋々といった様子で、俺から離れる。

 慣れているのか、リーゼロッテはそんな彼の涙を拭き、流れていた鼻水も拭ってやってる。年の割に、かなりしっかりした女の子のようだ。


「初めまして。ヴェルナーの双子の妹で、リーゼロッテと申します。私やヴェルナーや子供達、街の人達を助けて頂き、本当にありがとうございます」

「俺はハエレティクスだ。ハエレでいい」


 リーゼロッテは、軽くスカートの裾を持ち上げて、可愛らしいカーテシーを取る。

 背中までの緩いウェーブの掛かった金髪と、ヴェルナーと似た顔立ちと青い瞳。

 ヴェルナーが元気なら、リーゼロッテは利発そうな印象を受ける子供だ。


 ……所で、今なにか気になる言葉を聞こえたぞ。


「子供達が元気になったのは良かったけど、街の人達とは? 俺は街の人には何もしてないんだが……」


 行商人の男を助けはしたが、それだけだ。

 回復してるなら、それは男や教会の人間が、頑張ったからじゃないのか?

 そんな事を伝えると、リーゼロッテはコテンと首を傾げる。


「え? でもハエレさんが、回復魔法を使われた直後から、街の人達が回復したんだって聞いてます」

「回復魔法……? いや、使った記憶は無いが……、……あ」


 確かヴェルナー達に、色々回復魔法を使った時。

 2人に魔法をかけても効果が無いからと、どんどん範囲や強さを上げて行った記憶がある。

 そうだ。確かにあの時、広範囲の回復や、浄化の魔法を使った。あれがまさか、街の人間全員回復に繋がったのか?

 

 呪いは、ヴェルナーとリーゼロッテの2人に向けたものだったしな。

 それ以外の人間は、きちんと回復していたと言う事か。


「神父様も感謝してました。神の御業に違いない! って。だからハエレさんが倒れてた時は、ずっと教会でお祈りを捧げていましたわ。本当は回復させたかったけれど、自分の力では、それが出来ないからと」

「……そうか」

「街の人達も、皆教会に来て、お祈りしてるんです」

「そうか……、…………え、皆?」

「ハエレさんは、街の救世主ですもの。皆を助けてくださった代わりに、ご自分が倒れてしまったのですから、お祈りする位しますわ」

「別に救世主とまでは……」


 街の人間が回復したのは……たまたまと言うか、なんと言うか。

 どの道、トゥルトが瘴気を消していってたみたいだから、その時点で、皆回復はしたと思うし。


「そんな事ない。ハエレさんは救世主だよ」

「ヴェルナー?」


 それまで黙っていたヴェルナーが、ポツリ言葉にする。


「俺もロッテも死ぬ所で、街の人達もバタバタ倒れていったのを、助けてくれたんだから。危うく皆が死ぬかもしれなかったんだから。それを助けてくれたハエレさんが、救世主じゃなくて、なんなのさ」


 また泣きそうな顔になって、袖を掴んできた。

 と言うか、これは泣くかな。既に瞳が潤んできてる。

 涙を拭ってやろうかなと思ったら、今度は泣き顔を見られたくないのか、自分でゴシゴシと目を擦って「何でもないから、目が痒いだけだから!」とか、可愛い事をいうので、まあ、そう言う事にしておこうか。


「さぁ、ヴェルナーもリーゼロッテも。ハエレさんは、まだ気が付かれたばかりなのだから、無理をさせてはダメよ? リーゼロッテは、料理中のようだけれど、大丈夫なのかしら?」


 パンパンと軽く手を叩いて、シスターが2人に注意を促すと、リーゼロッテは「あー!」と大きな声をあげた。


「いけない、私、少し様子を見に来ただけだったんだ! お鍋焦げちゃう! ヴェルナーも、お皿出すの手伝って!

「うん、分かった!」


 シスターの言葉に、料理中なのを思い出したのか、リーゼロッテとヴェルナーが、バタバタしながら部屋を出ていった。


「あ、ハエレさんには、薄味のスープ用意してあるわ! 食べれそうなら、それを食べてくださいね!」

「あぁ、ありがとう。後で頂くよ」


 ひょこっと顔だけ出したリーゼロッテは、それだけ言うと、すぐにまた扉を閉めて、元気な足音だけをを残して、去っていった。

 しばらくしてから「きゃー! お鍋がー!」とか聞こえてきたので、少し焦がしてしまったのだろう。


 その様子が、まざまざと想像出来てしまい、俺はククッと笑ってしまった。

 ヴェルナーは、感受性豊かな元気な子で、リーゼロッテはしっかりとした子に見えたけれども、思ったより、リーゼロッテも元気な子なのかな。

 なんにせよ、倒れていた2人の姿を知っているだけに、元気に走ったり喋ったりする所が見れて良かった。


「まだ、起き上がったばかりですのに、みんな騒がしくてすいません。私もちょっと様子を見てきますね」


 シスターは立ち上がると、頭を下げてくる。


「あぁ、いえ。元気な姿を見れて、逆に安心しましたから。」

「ありがとうございます。スープは、こちらに運びましょうか?」

「そう、ですね……。お願いしてもいいですか」

「えぇ、勿論。それでは、少し失礼しますね」


 静かにパタンと扉を閉めて、シスターも部屋からいなくなった。

 先程まで賑やかだったのもあるからか、静けさを強く感じる。


 …………。

 キョロリと、部屋の中を見渡してみる。

 ここはヴェルナーとリーゼロッテが横になっていた、診療室だった。

 数日間、ベッドをずっと占領していたのか。悪いことをしたな。


 俺はベッドから下りて、体調を改めて確認してみた。

 うん。魔法をかけなくても体調はもう、大丈夫そうだな。

 ついでだしと、部屋の中を裸足のまま、ペタペタ歩き回ってみた。


 棚には、塗り薬や飲み薬等が陳列されているが、子供が誤って手にしたり、誤飲をしないようにか、そう言った薬品は全て、高い所にきちんと保管してある。

 机には応急手当の本や、常備薬だろう軟膏、魔宝具も置かれていた。

 魔法具は水晶玉で、青い光が淡く発光しており、水晶の中には紋が刻まれているのも見える。


「……」


 水晶玉をそのまま見ていると、コンコンとノックの音が届いた。


「ハエレさーん! スープ持ってきた!」

「私達もここで、一緒に食事しても、よろしいかしら?」


 ノックの音と共に扉が開けられると、ヴェルナーとリーゼロッテが顔を覗かせる。

 2人とも、ニコニコ笑って俺の反応を待っているようだ。



 …………これはもしかして、もしかしなくても……俺は懐かれて、る……?






■■■

話のストックがここで切れてしまいましたので、ここからは、毎時6時更新が出来るか、少し微妙になります(すいません)


とは言え書くのは楽しいですし(双子との絡みを書いていきたいし)、出来る限り更新していける様、話を書いていきますね。


宜しければ、これからも、どうぞよろしくお願いします\(*ˊᗜˋ*)/♡

 

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