アーベントロートの流行病 2
「いや、いくら何でも、それは大袈裟過ぎやしないか……」
俺は額に手を当てて、やや呆れた口調で返す。
しかし目の前の男は、そんな事はない! と何度も強く首を振った。
しまったな……聖魔法なんて、あっちじゃ使う機会なんて皆無だったから、人間界での基本レベルが、どの位までなのかとか、確認してなかった。
チラリと目線だけを上げる。
男は何やら興奮しだしてきて、目が爛々と輝いているし、何なら握り拳まで作っている。
テンションが、高い。
「俺は一介の行商人なんだけどさ、これでも信心深いんだ。日々の祈りは欠かさないし、教会にも毎月、一定額寄付もしていてな。だから、目の前でこんだけ見事な魔法を使える人がいたら、そりゃ、名のある神官様が、お忍びの旅をしてるのか! とか思っちまうのは人の性だろ?」
えーと、いや、思わない、かな……。
と言うか、いつの間にか神官は決定の上、お忍びの旅って付加設定迄ついてきてるぞ。
違う、違うから。なんだその設定は。
この男、悪いヤツではないし、寧ろ、人の良さは折り紙付きクラスなのかもしれない。
が、ちょっと、暴走しかけるタイプに近いな。
ダメな方に暴走では無いから、まあ、いいけれど。
「うーん、その誤解は……そうだな……後々話すとして……。一先ず今は、目の前の現状に、対処したいなと思うんだが、どうだろうか」
そう言われて、男はやっと現状が目に入ったのか、慌てて周りを見渡す。
そう、体調が回復してるのは、男だけ。
他の人間は今も皆、変わらず苦しんでいる最中だ。
「アンタのその魔法で、全員治す事は出来ないのか?」
「この人数と、広範囲に渡っての病人だからな。治したくても、俺の魔力が恐らく持たない」
「……そ、そうか……そうだよな」
あからさまに、しゅんと項垂れてしまった。
とりあえず話は最後まで聞いてから、項垂れてくれ。
「えと、行商人でここにはよく来てるんだし、教会の場所は知ってるんだろ?」
「え? まぁそりゃな。1番利用してる街だし」
「なら、倒れた人を、教会に連れて行ってやる事は、出来ないか?」
「俺がか?」
「あぁ、教会には神父や治療師もいるだろうし。
それに、結界魔法も教会内には、通常張られている筈だから、少しはマシになると思うんだ」
「あ、なるほどな! 任せてくれ、俺はおかげで、この通り元気になったし、教会に倒れてる人を、運んでいく手伝いをするぜ!」
「うん、そうしてくれ。教会も手一杯かもしれないが、道端で倒れてるよりは、楽になると思うんだ」
実際、教会のあるだろう、とある一角。
そこの場所だけ、他より確実に瘴気が薄い場所が、ここから見えるんだよな。
あれは、教会の結界だろうから、そこに行ければ、だいぶ違うはずだ。
「俺は、他の場所を見て回ろうと思う。この辺りで、人の多い場所とか、集まりやすい所はあるか?」
「そうだな……それなら、この通りを左に曲がった1番奥に、孤児院がある。大人は少ないが、子供が多くいる場所にはなるぜ」
「子供か……ある程度の年齢になれば、体力や抵抗力も付くだろうが、幼年だとするとマズイか……」
こんな極悪な瘴気、体力の無い子供なら、簡単に魂が、おさらばしてしまう。
「分かった。俺はその孤児院を見に行くから、あんたは……」
「あぁ! 分かってる! きちんと教会へ連れて行くぜ」
男はガッツポーズをすると、すぐに、近くに倒れている老婦人へと声を掛けていった。
これでこの辺りの人間は、どうにかなるか。
俺も孤児院の方に行ってみよう。
ある程度の広さがあれば、そこに人間を集めて、まとめて浄化と回復魔法をかける事が出来る。
そうすれば、一気に治せるし、その方がいいだろう。
俺は通りを、孤児院のある建物の方へと向かい、走って行った。
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