少しの間(50年)だけの引き籠もり生活
家の中は、大分年月が経ってるらしく、埃が凄い。
家具等も残ってはいるが、どれも傷みが激しく、生活に使うには難しそうな状態になっている。
「此処を借りるとしたら、手入れがかなり必要そうだなあ」
せめて書物だけでもないかと探してみたが。
前の住人は、そこまで書物が好きではなかったのか、棚に数冊本があるだけだった。
「うーん……」
読む本が沢山あれば、掃除も頑張ろうかと思ったんだけれど、それも難しいか。
これだけ状態が酷いと、掃除とかでなく完全に新調した方が、早いかもしれない気もしてくる。
「ん、待てよ……新調、新調か……」
俺は、とある案を思い付いた。
が、まずはそれが出来るかどうか試してみようと、頭の中でソレの、大きさをイメージしてから、呪文を唱えた。
ポンッ。
という、気の抜けるような音と共に、俺の前には小さな箱位の空間が出てきた。いや、出来た。
「うん、空間魔法も、問題なく使えるみたいだな」
魔族としての力は無くなってるけど、魔法は確かに間違いなく、元々使っていた属性は全部使えるようだ。
よし、これなら、この部屋の間取りに合わせた空間を作れば、ここに住んでるように出来るな。
空間の中は、こことは別の世界というか空間だから、時の流れが違ってしまうけど、まあ、そこはあまり気にする所でもないし。
「必要な物があれば、都度キノコや山菜、魚とかを町に売りに行けば、貨幣も手に入るし。当面は此処を拠点として暮らして行くとするか」
住む場所が決まってしまえば、後は早かった。
風魔法を使って木々を伐採し、棚や家具とかを作って、住み良い空間へと変えていくのも、割合楽しい作業だったし、釣った魚をその場で焼くのも楽しかった。
そうして、魚やキノコ等を近くの町に売りに行き、代わりに干し肉や調味料も貰ったり、通貨に替えてもらって、書物を都度購入したりの生活が暫く続いた。
……とは言っても、俺の作った空間の中にいると、数日いるだけなのに、人間界では数年近く経っていたりするので、その辺りの感覚が、まだ上手く慣れない。
俺が思っていたよりも、時間のズレが大きかった。
最初はさすがに驚いた。
何せ町に行く度に、若干風景が変わってて、「あれ? え??」となってしまっていた程だ。
計算するに、どうやら、この空間の時間軸は、魔界との時間の流れの方に近い感覚を受ける。
元々は俺も魔界にいた身だ。
ここにいる方が、時間感覚はシックリ来るなと思い、ある程度必要な物が揃ってからは、外には本当に必要な時にしか出ず、極力、空間内で過ごすようにして行った。
……引き籠もり生活とも言うが。
そうして、のんべんだらりと過ごして、半年が過ぎた位だろうか。
気が付けば、人間界では既に、50年近くの時が経っていた。
流石にそれだけズレがあると、何が起きたかなどの情報が分からなくなる。
俺は町に行った時に、極力、情報を聞くようにしたり、紙面があれば、それを購入して、世間の情勢を出来るだけ確認していくようにしていった。
どうも、俺があっちの空間にいた半年の間に、どこかの国が滅ぼされたり、国同士での戦争が始まっていたり、魔界の魔王が、人間界を侵略し始めたり等、ずいふと色んな事が起きていたようだ。
あまり良い話題ではない内容ばかりが目に入ってくるのは、なんとも世知辛い。人間界も、だいぶ不穏な時代になってきてるんだなあ。
……。
……、……待て、魔界?
は? 魔界の魔王が、人間界を侵略?
何かの読み間違いかと思い、俺はもう一度記事を読み直す。
……読み間違いでも何でもなかった……。
侵略して既にいくつかの国が滅ぼされているらしい。
待て、待て待て待て。
人間界と魔界は、基本不可侵条約のはずだ。
いや、俺は追放されたりはしたが。
それでも互いの世界が相手の世界に戦を仕掛けてはならない事は、先々代よりも、ずっと前から既に締結された事じゃないか。
「何してんだ、トゥルト……」
能天気に笑う魔王様の、トゥルトの姿を思い出す。
まさか、ペルプランドゥスに言われたまま、侵略行為まで始めたとでも言うのだろうか。
流石にそれは有り得ないと、信じたいが……。
「もう少し、情報が必要だな」
これは流石に、このまま引きこもってる訳には行かないか。
長く住み慣れた小屋の空間を消し(せっかくだから、作った家具や調味料、書物なんかは、そのまま小屋にあった壊れかけていた家具と交換して置いていく事にした)、俺は、情報を集めるには大きな場所がいいだろうと、この近辺で1番大きな街の、アーベントロートへと向かう事にした。
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