湖の畔の小屋

 辺りを軽く見回してみる。


 ここは森の奥の方なのか、出口となる部分が、全く見えない。


 上を見上げても、樹齢の高い木々達が、無駄に覆い被さるように枝葉を広げてしまい、光を遮っていた。

 ……ここの森はあまり、若い木々は育ちそうにない環境だ。


 湿った枯葉の上を歩きながら、近くをひとまず歩く。


 木々には木の実がなっており、食べれる種類のキノコも、あちこちに沢山生えてるのが見つかった。

 うん、この辺りで、食べて暮らして行くには、困らなさそうだ。


 もう少し歩いていくと池……いや、湖? 池にしては大きく、湖にしては小ぶりのある所へ出た。


 近くには、昔は人間が住んでいたのか、だいぶ朽ちてしまった、古ぼけた小屋が残っている。

 その証拠に、この辺りだけは、間伐もしてあるのか、若い木々が育っているようだ。

 陽の光も遮らず、陽光が湖面に反射して綺麗に輝いていた。


 「ここは、動物達の飲み場となってるようだな」


 水辺には、何種類かの動物達が、水を美味しそうに飲んでる姿がある。

 パシャリと、魚もライズしていたし、魚達もだいぶ棲んでいそうだ。


 少し喉の乾きを覚えたので、俺も一緒に水を飲むかと、手近な葉っぱを簡単にカップの形にした。

 魔界にいた頃、小さい頃はトゥルトとよく、森を散策しては、湧き水を飲む時に、こうやって葉っぱをカップの様にしては、飲んだものだったっけな。


 ……。


 ……思わず久しぶりの事で、また昔の事を思い出してしまったが、頭の隅に無理矢理追いやると、俺は水を汲むため、水辺を覗き込んだ。


「……ツノが……いや、それだけじゃない」


 水辺を覗き込んだ事で、自分の今の姿を見る事が出来た俺は、軽く息を飲むことになった。


 魔族の象徴であるツノが無いだけでなく。

 背中まである髪を三つ編みで纏めている、ダークレッドの髪は銀色に、常に眠たげな半目の中に見える、翠の瞳は黒色にまで変わってしまっていた。

 それ以外の顔の造形や、目の下のクマ、視力の悪さなんかはそのままだけれども。

 

「そうか……同じ髪色、瞳の色である事すら、お前は嫌になってたのか……」


 まさか、そこまでして、魔法で変えさせる位までに、嫌われてしまっていたとは、気が付かなかった。

 それは、早く遠ざけたいし、見ていたくもないよな。


 ポタリと、水の上に小さな波紋が生まれる。

 ……おかしいな。まだ、水を汲んでいないのに。虫かな。


 ……、……。

 

 俺は次々作られる波紋を消すかのように、水を何度も何度も汲んでは飲んだ。





「さて、これから、どうするか……」


 ゴロンと寝そべって、空を見上げながら、ポツリ呟く。


 追放された以上、魔界に戻ったら捕まる。

 かと言って、何かしたい事があるかと考えても、本を読んでたい位だし。

 俺って趣味がとことん無いヤツだな……

 待てよ、本、本か……。


 チラリとさっき目にした、小屋に目を向ける。

 何か書物とか残ってたりしないだろうか?


 行く所もないのだし、誰も住んでなくて、中が住める様な状態であれば、使わせてもらうのもいいかも知れない。


 俺はムクリと起き上がり、服や髪に付いた草を取り払いながら、小屋に向かうと、何度か扉をノックしてみた。

 もし、誰か住んでいたらという可能際も考えてはみたが、やはり返事は帰って来ない。

 中は無人のようだ。


 軽く扉を押してみると、鍵も掛かってなかったらしく、それは、すぐにゆっくり開いていった。 


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