第96話 嫉妬
鬼面の正体は、元の世界でナビーが最初にコンビを組んでいた、
顔があらわになった瞬間は微笑んでいるように見えたが、すぐに鋭い眼光を向けて言葉を吐き捨ててくる。
「さらに強くなったみたいだね。本当に君は憎たらしいよ」
「どうして……剛さんが!?」
体が硬直してしまった俺の腹部に、
……やられる!
「ヒンプンシールド! ヒンプンシールド!」
後ろから来ていたナビーが、俺と剛の間にヒンプンを出した。
後退した剛の前に2つ目のヒンプンを出したすきに、俺は剛との距離を取りながらナビーと合流する。
「ごめんナビー。助かった」
ナビーは顔面蒼白で明らかに動揺しているが、平常心を保つようにしている。
「シバ、少し落ち着きなさい! って言ってられないみたいだね。剛、何でお前がこんな所にいて、こんな事をしているのか?」
不敵な笑みで無言の剛は割れた鬼面を拾って
俺はナビーに助けられて少し冷静になれている。
そのおかげで思い返すことができたことを剛に問い
「そのお面を被っているということは、あの日、向こうの世界の首里城を燃やしたのは、剛さんだったってことですか? 答えてください!」
「首里城を燃やした? まさか、僕がそんな恐ろしいことをしていたとはね。まあ、そんなことはどうでもいい。僕はねシバ、ただ君を倒しに来ただけなんだよ」
「俺を!? 俺が剛さんに何か失礼なことしましたか? それなら、その時に注意してくれれば良かったじゃないですか」
「違う。僕はね、ただ君の強さが憎いだけなんだよ。だから、君より強くなるためにこの力を得て、君を倒すためにここに来たのさ」
俺1人に対する憎しみだけで、
「それって、いわゆる闇落ちってやつか……ちょっと待ってください! 剛さんって30代ですよね? その年で闇落ちって
「ダ、ダサいだと!? 中二病の君には言われたくないわ!」
「いやー、闇落ちは中二病を軽く超えるヤバいことですって」
「いやいやー。ヤバさでは君に負けるよ。アニメ好きは百歩譲っても、剣のキーホルダーを買っただなんて一生の汚点、黒歴史確定だぞ」
「闇落ちした奴って悪い力を得て強くなったくせに、どうしてあんなに威張れるんですかね?
そのあとも不毛な言い合いが続いたが、ナビーの我慢が限界になった。
「えー、
俺は冷静になったつもりだったが、違う意味でなりきれていなかったようだ。
「っていうか、何でナビーがレスバを知っているんだよ?」
真っ青だったナビーの血色が良くなったことを確認して、今度は落ち着くことができた。
その時、
「ずいぶん楽しそうだな剛。まさか、もう一度裏切ることは……まあ、それは無理な話だったな」
舜天の顔は
警戒するために俺が刀を構えようとするのを止めて、ナビーが1歩前に出た。
「
「勘違いするな。たしかに、我は
「剛さんの
剛が裏切って舜天に攻撃をした後、剛はナビーから
「その時は妖力が無くなったのだろう。しかし、剛には我の兄で
ナビーは、その時の事を思い出して説明し始めた。
「そういうことだったのか! シバ、覚えているねー? あの時、剛の
「忘れるわけないだろ。そのあと、修行した花香ねーねーのグミヌチジで
「うん。
あの時からずっと、剛の中には舜天の兄、大舜の魂が宿っていたということだ。
「結局、剛さんをこんなにしたのは舜天、お前だろうが! 絶対に許さない!」
舜天は呆れたようにため息をついた。
「何を勘違いしているのやら。たしかに、兄上の魂を宿しはしたが、強い怒りや憎しみの感情がないと鬼の妖力は生まれない。剛にはそれがあり、おぬしがその火種なのだから、おぬしのせいでもあるのだよ」
大舜の魂が剛の負の感情を糧にして、
向うの世界ではマジムンの気配を感知できたナビーが気が付けなかったのは、剛と舜天はセジでヒンガーセジを覆い、マジムンの気配を消すことができたからだろう。
「俺の強さが憎いだけで、こんなにもヒンガーセジを生み出せるわけがない。他に何か理由がありますよね?」
「シバ君。君は何でもこなす天才で、僕のセジオーラも簡単に会得してしまった。しかも、ナビーが異世界琉球に帰ることになった時は、当たり前のようについて行くと言い切った。僕にはできない事を当たり前のようにこなす君が、心の底から憎たらしくてしょうがないんだよ!」
今度はナビーが呆れたようにため息をついた。
「シバが天才? まあ、【中二病】のおかげで特技をあっさり覚えるから、最初は私も
……ずっと見られてたー!?
「僕も、頭のいかれたナビーについて行くために、必死に頑張っていたさ。だけど、僕には無理だった。正直ね、ナビーについて行くだけで天才なんだよ」
「いかれっ……もういい。途中で逃げ出したお前に、シバを
「資格? それを言うなら、ナビーが僕たちの世界に来たことが、全ての元凶だということがわからないのか? 君が僕のことを止める資格もないのでは?」
「それを言ったら為朝軍が……って言ってもキリがないねー」
ほくそ笑みながら舜天が剛の肩に手を置いて、戦いの
「言葉の応戦では何も進まない。剛の望み通り、我は手出しはせぬ。さっさと2人を倒して、剛の生み出したこの妖兵を進軍させて首里を攻めに行くぞ」
……よかった! 首里には敵が来ていないってことだな。
俺が刀を構えようとすると、またもナビーが止めた。
「シバ、剛の人生は私が壊したも同然さーね? だから、剛を倒すのは私の役目さー。シバは見守ってちょうだい」
「バカ言うな! 俺を敵視しているんだから、俺が戦わないとダメだろ! それに、ナビーは
「シバは、私がヒヤーがないと戦えないと思っているわけ?」
「違う。剛に勝っても舜天とマジムン軍が……」
俺とナビーの言い合いにしびれを切らした剛が怒鳴ってきた。
「お前ら、どこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだ! もう一度、
「ちょっと待てい! なんだそのネーミングセンス!」
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