第95話 浦添軍全滅
約5カ月の生活で浦添の人々や土地に愛着がわいてきたところだったので寂しいが、ここでの俺の役目は今日で終わる。
最後に一目見に来ているのか、軍の隊列の後ろに多くの民が駆けつけてきている。
ナビーと浦チンの3人でその光景を眺めていると、
「みんな集まってくれて良かったさー。
「俺を浦添按司に任命したのは尚忠王ですから、尚忠王の采配が良かったってことですよ」
「いいや。
しびれを切らしたナビーが尚忠王を急かす。
「それはもういいから、早く声をかけてあげないと。王が来ているからみんな緊張しているさー」
尚忠王はナビーの言葉にうなずき、大衆の前に出た。
「浦添の民よ、よくここまで浦添を発展させてくれた。
『中二按司のおかげです!』
民衆の中から誰かが叫ぶと、次々と「やめさせないで」の言葉が飛び交い騒がしくなった。
……やっべ。
「静かに!」
尚忠王の隣に立った浦チンが注意をすると一斉に声がやんだので、尚忠王はスピーチを再開する。
「ここまで慕われた
皆の前で頭を下げる
「頭をお上げください! 尚忠王が謝る必要などありません。そもそも、短期間だとしても中二按司をこの浦添に就任させただけでも
防衛面では俺とナビーが居なくても戦って行けるように、戦略を練り上げてリーダーの
浦添の分の
それに、ケンボーによるシーサー兵の修行は、戦で機能するようになるまでは継続してくれるというので心強い。
農作物の問題も、兵士の修行を活かす形で
「そうか。やはり、シバを
王の直接の激励に民衆は涙を流しながら喜んでいた。
琉球王朝が居城を首里に移したことで、ずっと捨てられたように感じていた浦添の民にとって、今日は特別な日になっただろう。
もらい泣きしそうになったのをグッとこらえて、今度は俺のスピーチの番になった。
「浦添の皆さん、短い期間でしたが、どこの誰かも知らない私なんかに付いてきてくれてありがとうございました。私のやってきた事が正しかったかはまだ分かりませんが、これからの浦添がいい方向に進んでくれることを願っています」
『中二按司、
『たまには遊びに来てくださいよ!』
「これから私とナビーは琉球各地での戦いの日々に戻ります。たまにはこの地に寄ることもあると思いますので、その時は歓迎してくださいね」
歓声と拍手と指笛が鳴り響き、体の芯を強く震わす。
最後に大声で「
「民を守れ!」
朝日に照らされていたそこら一帯が一瞬で影に覆われた。
上空に数百の黒い龍が出現して、千人近くいる民衆に降り掛かろうとしていたのだった。
「シバ! 奥から!」
ナビーの叫び声だけでやりたいことを理解した。
『
民衆の後ろ側、約半数の人々を石垣でつくったドーム状の中に閉じ込めた。
残り半数は、守れの言葉に反応した150人の浦添軍がヒンプンシールドや身を
そこに容赦のない黒龍の雨が降り注ぐ。
気を抜けば石垣牢が壊れてしまいそうなので、俺とナビーは
俺たちに向かって来る黒龍は、
「
さらに降り注ぐ黒龍。
視界に入る、民を守って次々と倒れていく兵士たち。
まとめて守ってやりたいがそんな余裕はない。
ここまで頭に血が上る感覚を味わったことがないほど怒りでおかしくなりそうだったが、何とか我慢して耐えているとやっと攻撃が収まった。
石垣牢を解いて辺りを確認すると、千人ほどいた民衆は見事に全員無事だったが、浦添軍150人全員が地べたに倒れ戦闘不能状態になっていた。
続けて攻撃が来る可能性があるので、急いで全員を城内に避難させるように浦チンに頼んだ。
「みなさん、城内に避難してください! 中二按司とナビーさんが守ってくれますので落ち着いてください!」
ナビーは辺りを警戒しながら嬉しそうにしていた。
「残りは守り切ってくれたみたいね。
ナビーが白虎をシーサー化させ、琉美たちの元に向かわせている時、尚忠王が俺の肩に手を置き、お褒めの言葉をくれた。
「あれだけの数の民を良く守ってくれた。2人がいなければ全滅だったかもしれないさー」
怒りで頭がジンジンとしていたので尚忠王の言葉を耳では聞いていたが、脳までは届いていなかった。
……こんな攻撃をできるのは
その時、遠くで地鳴りのような音が聞こえ、土煙がゆっくりと近づいてきた。
横の広がり具合から想像すると、今までにないほどの大群が迫ってきているのかもしれない。
「マジムン軍……
「
「
尚忠王は愛獅子の
ナビーと尚忠王が話している間、俺はずっと
その時、地鳴りがやんで土煙がゆっくりと消え去ると、先頭に1人の人影が見えた。
離れていても感じる不気味なオーラ。鬼面で顔を覆い弓をもったその姿は、向こうの世界の首里城本殿に火矢を放った張本人だった。
「お前か!」
攻撃をしてきた敵が首里城を燃やした鬼面だと分かった瞬間、理性だけではこみあげてくる怒りを抑えることができなくなっていた。
「シバ? シバ!」
俺はセジオーラを使い、約300m先にいる鬼面の人めがけて脇目を振らずに駆けて行く。
「
まさか、俺が考えなしに突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。鬼面は明らかに反応が遅れていた。
しかし、抜刀した
それから、刀を振り切った勢いを利用して回転し、更に強く深く斬りこもうとしたが、割れた鬼面の中身が見えた瞬間、身体が固まってしまった。
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